新撰組異聞__時代 【中編】
第3話 東雲
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もし、違う時代に生まれていたら違っていただろうか。
仲間の血を多く流す事もなく、敵同士に分かれる事もなく、笑って酒を呑み交わし、同じ空の下でこれからの事を語らえていただろうか。
人は、変わらねばならぬと云う。新しい時代で生きていくために。
もう、時代が違うと云う者もいる。目の前の光景が、それを教えていると云わんばかりに。
「副長…!」
「引くんじゃねぇ!退く者は斬る!!」
慶応4年鳥羽・伏見。
もう何人かの血を吸ったか知れぬ和泉之兼定を手に、彼は同士を怒鳴った。
銃声と大砲の音が轟く中、気迫だけが頼りだった。
そして、これが彼の初めての敗戦となった。
時代は確実に、変わろうとする。
それでも。
それでも、彼は戦い続ける。敵は薩長軍ではなく、時代という敵と。
鳥羽伏見戦から遡る事、元治4年。
その報せは、やってきた。
「___あ…」
歳三の部屋にいた総司が、声を出した。
障子の外にすっと現れ、開いた先にその男はいた。見回りの時に、すれ違った一人の町人である。
「ご苦労だったな、山崎」
「あの、土方さん?」
「お前も会ってるぜ、こいつと」
「___あぁっ!もしかして、監察の山崎さんっ!?」
うまく変装しているために、彼だと理解らかった。
「焦りましたよ。貴方が妙な顔をしますから」
「土方さんは気付いていたんですね。酷いなぁ。知っていたら、知らないふりしましたよ」
「お前は正直すぎるからな。で、理解ったか?」
「ええ、桝屋です。主の枡屋喜右衛門、真の名は古高俊太郎と云うそうで」
桝屋は、四条河原町にある諸藩御用達の古道具屋である。
この男により、池田屋事件に発展する。
「手強いのは、桂だな」
「桂___?」
勇から何気なく漏れた名に、歳三の杯が止まる。
「どうした?」
「あ、いや。その桂がどうしたって?」
「長州じゃ、なかなかの腕らしい。江戸の練兵館にいたと云うから北辰一刀流か…」
桂小五郎___、まさかこんな時にその名を聞くとは。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍