新撰組異聞__時代 【中編】
*************************************
彼らは、市中見回りに来ていた。
遠巻きに人々が見つめる中、向こうから一人の町人が歩いてくる。最初に気付いたのは、総司だった。
頬被りに、篭を背負い、ごく普通の町人。それなのに何処か何かが違うと、総司の勘が教えている。不逞浪士とは違う何かを。
歳三を見ればいつもの彼で、気付いたのはどうやら総司だけのようだった。
「総司」
「え…」
「大丈夫か?」
「何をです?」
「大丈夫なら別にいい」
彼は彼で、何かに気付いている。
___変な人だな。
総司は、ふっと笑って軽く咳をする。
思わず口に当てた手拭いに血が付き、それを懐に戻すのを歳三は見逃さなかった。
嫌な予感がする。
歳三の顔は、厳しいものになっていく。
そしてそれは、的中する事になるのである。
側にいる者が、消えていく予感。
「帰るぞ」
「え、副長。もう?」
羽織の袖と、束ねて結んだ髷の先を肩で揺らして歳三は屯所への道を進む。
鬼にならねば、不安に襲われる。敵には勝てない。
逃げはしないが___、
『士道不覚悟』
誰かの声が聞こえた気がして、歳三は軽く笑む。
___なってやろうじゃねぇか、鬼に。
小五郎が見上げた空を、歳三も見上げるのであった。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍