新撰組異聞__時代 【中編】
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芹沢鴨は、機嫌が悪い。
「新撰組筆頭局長だぞ、わたしはっ」
「それはもう、重々承知してます。でも、太夫には先客が…」
「まぁまぁ、先生。妓なら他にもいいのがいますよ」
「お前は呑気だな、新見」
「彼のせっかくの配慮ですよ。我らを盛り立てようと云う近藤くんの」
新見錦は、手を叩いてありだけの妓を揃えろと声を上げた。
その勇は、少し離れた座敷にいた。
「浮かぬ顔どすなぁ?」
「そりゃぁ内心、ビクビクものさ。芹沢さんがいるからね」
「あん人が、怖ぅおすか?」
「彼は、お前目当てで来たからね。まさか、私といるとは思わないだろう」
「うちの旦那はんは、近藤はんどす」
「強いな、深雪は」
勇は、ふっと笑って少し緊張を緩めた。
酒宴が盛り上がり、すっかり芹沢は酔っていた。
その座敷へ、トントンと廊下を進む足音が向かう。
「___芹沢筆頭局長」
「ん?」
芹沢と新見の視線の先に彼は膝をついていた。
「土方か、何だこんな所に…」
「御相談がございます」
「土方くん、場を考えろ」
「新見先生にも、是非」
「…なんだ?相談とは」
「組織を維持するために、隊規がないといけません。不逞浪士を取り締まる我らが、隊も厳しくしない事には成り立たぬと思います」
「それで?」
「これをご覧の上、ご署名を」
歳三は、懐からだしたものを芹沢たちの前に広げた。
一、士道に背キ間敷事
一、局ヲ脱スルヲ不許
一、勝手ニ金策致不可
一、勝手ニ訴訟取扱不可
一、私ノ闘争ヲ不許
右条々相ヒ背候者ハ切腹申シ付クベク候也。
意味は『『第一、士道に背くこと、第二、局を脱すること、第三、かってに金策いたすこと、第四、かってに訴訟を取り扱うこと、この四箇条をそむくときは切腹をもうしつくること。また、この宣告は同志の面前で申し渡す』である。
「いいだろう」
芹沢と錦見の名が書かれ、歳三は頭を下げた。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍