新撰組異聞__時代 【中編】
新撰組も人数が増え、八木邸では屯所として手狭となり、前川邸も屯所として利用されていた。
看板には『新撰組』と黒々と太い字が躍っていた。
だが、未だ足りない。
歳三が、勇の前でそう呟いたのは昼前の事だ。
文机の前に座り、硯と紙を前に睨んでから数刻、そのあまりの異様さに周囲は竦み上がった。
「鬼が憑いてんじゃねぇか?」
この、冗談交じりに呟いた隊士の一言が、まさに鬼の如く表になるとは誰も思わなかった。そして、何よりも勇が驚く。
「ちょっと、厳しすぎないか?トシ」
「これくらいじゃねぇと、やっていけないぜ。近藤さん。後は、芹沢たちだ」
「?」
「一応、筆頭局長ともう一人の局長だからな」
「島原にでも誘うか」
「近藤さん、あんたが生きたいんじゃないのか?」
「え…あ…、まさか…ははは…」
歳三は、溜息をついた。顔に出ているのだ、勇は。
すっかり深雪太夫に夢中になり、身請けする気でいる。
「私もお供しますよ」
「子供の行く所じゃねぇよ」
「こういう時に限って、子供扱いするんだから」
総司は拗ねたが、あの二人を納得させる自身はない。
「総司、ここは局長と土方さんに任せよう」
「山南さん」
にっこりと笑む、山南敬介に総司は頷いた。
作品名:新撰組異聞__時代 【中編】 作家名:斑鳩青藍