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新撰組異聞__時代 【中編】

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第2話 士道不覚悟


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 「すっかり有名になりましたなぁ」
 妓の言葉に、男は視線を上げる。
 「ほんまに、偉うなりはって」
 男の羽織を愛おしげに抱きしめながら、その顔は何処か寂しそうに見えた。
 黒羽二重の紋付き羽織。家紋は左三つ巴。
 「俺は、変わっちゃいないよ。東雲」
 「理解ってます。中身は、うちが知ってる土方はんどす。うちの事、忘れてまへんどした。それやなかったら、ここには来てくれはらへんもの」
 「紅葉、いつか見に行こう」
 「___待ってます」
 夏__。
 長州藩の不穏な動きが、壬生浪士組に知らされた。
 尊皇攘夷を掲げる長州藩と一部公家は、大和行幸の機会に、攘夷の実行を幕府将軍及び諸大名に命ずる事を孝明天皇に献策しようとした。徳川幕府がこれに従わなければ長州藩は錦の御旗を関東に進めて徳川政権を一挙に葬ることも視野に入れたものだった。
 「直ぐに都を固めるべし」
 公武合体派と尊皇攘夷派の対立が、ついに表面化した。
 「よぉし!やってやるかぁ」
 「永倉、力みすぎて墓穴掘るなよ」
 「お前こそ、へまはするなよ。藤堂」
 「元気ですねぇ」
 総司が笑みながら、歳三を振り返った。
 「いいか!尊皇派の連中を禁中にいれるんじゃねぇぞ」
 かくて、文久三年八月十八日、壬生浪士組と会津・薩摩などの藩兵が御所九門の警護を行う中、公武合体派の中川宮朝彦親王や近衛忠熙・近衛忠房父子らを参内させ、尊攘派公家や長州藩主毛利敬親・定広父子の処罰等を決議。長州藩兵は、堺町御門の警備を免ぜられ京都を追われた。またこの時、朝廷を追放された攘夷派の三条実美・沢宣嘉ら公家7人も長州藩兵と共に落ち延びた。世に云う、八月十八日の政変である。
 この功績により、壬生浪士組は会津藩主である京都守護職・松平容保の信頼を得、『新撰組』の名を賜る。

 「俺は、変わらないよ。いつまでも土方歳三は土方歳三のままさ」
 「そうどすな」
 東雲は、にっこり笑っていた。
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 「これで、いいか?」
 「少し曲がってんじゃねぇ?」
 「だったらお前書け、原田」
 前川邸の座敷で、藤堂、永倉、原田たちが看板を畳に置いて睨んでいた。