とうめいの季節 2
05.微妙に違うんだよ!
縁側で爪を切っていると、伊吹がばたばたとやってきた。やかましい、ちっとも落ち着かんのだから、と瑞はため息をつく。
「ねえ、瑞についてちょっと考えてみたんだけどさ!」
「ん?俺についてなんだって?」
何やら興奮気味にやってきた彼は、瑞の隣に座り込むと手にしていた広告紙を広げた。裏の白面に、鉛筆で計算や文字が書き込まれている。
「あのねえ、じいちゃんが瑞を転生させたのが、ほら、昭和のこれくらいの時期なんだよ。須丸(すまる)文庫で、手記を読んでわかったんだけど」
「昭和・・・ああ、そうだな。戦争が終わって、そのくらいの時期だったか」
「そんでねえ、それを考えるとさ、瑞が人間の身体を持ってから約五十年ほど経つことになるんだよ!」
「そうだけど・・・」
それがなんだというのだ?そんなもの今更大発見でもなんでもないと思うのだが。
「瑞のこといつもクソジジイってゆってたけど、人間にしたら瑞ってオッサンなんだね!」
オッサン・・・だと・・・?
絶句する瑞に、無邪気な笑顔が向けられる。
「だって五十歳くらいってことでしょ?」
五十歳・・・
確かに瑞が魂だけの存在から、ヒトの身体に転生して五十年ほどになる。だがしかしだ。
「・・・ちょっと待ておまえ。俺がオッサンに見えるのか?見えんだろ?」
魂の記憶は若くして死んだときのままであるから、外見は二十歳前の若者だ。中身は何千年という時を越えてきた魂であるから、瑞は自分が喧嘩のたびにクソジジイといわれるのは納得できたが、オッサンというのは心外だ。なんか違う、オッサンとジジイは微妙に違う!
「そりゃ見た目は高校生に見えなくもないよ。でも五十歳って言ったらさあ、松田くんちの父ちゃんと一緒だよ?現実見ないとだめだよ瑞」
松田くんちの父ちゃん・・・近所に住む、バーコードヘアーの男性が浮かぶ。
だめだ、肯定してはいけない!瑞は必死で説得する。
「まて伊吹、俺は髪だってふさふさだ。松田くんちの父ちゃんとは違うだろ」
「やー、今まで喧嘩のたびにジジイってゆってごめんね。身体はもっと若いもん、これからはオッサンて言うようにする!」
「 ! ! ! 」
な ん と ・・・ ! ! !
「じゃあね!朋尋にも教えてこよーっと!」
「待て伊吹!なんで俺の名誉を喜々として傷つけようとする!?ジジイでいい!今まで通りジジイにして!!」
なんでだよ、と伊吹が口を尖らせる。
「いつも年寄り扱いするなって言うじゃないか」
「オッサンという言葉のダメージがどれだけのものかおまえはしらんだろう!」
これでも近所のご婦人や伊吹の学校の先生からはモテモテなんだぞ!
年下ヤンチャ系男子なんだぞ!
「・・・そんな怒ることかな」
「爆弾落としておいてキョトンとしてやがる・・・!」
ひとの気持ちがわからんとは、おまえの式神として悲しいぞ。悪口というのは、言われたほうは言ったほうが想像もできないくらい傷つくのだ。
「じゃあわかった!今まで通りクソジジイにしとくよ」
「そうか、ありがとよ。助かった・・・」
「じゃーね」
伊吹は去った。瑞は爪きりに戻る。
「・・・・・・」
待て。何かが違う。
オッサンは回避したけど、クソジジイと呼ばれて喜ぶのは何かが違う・・・。
(えっ俺って普通にいまどきの若者気取ってたけど、伊吹から見たらジジイでありオッサンってことなのかな。あいつ俺をどういう目で見てんだ?)
爪を切る手が止まる。負のループに陥る瑞。
(伊吹には俺が松田くんちの父ちゃんに見えてるってこと?待って俺ってもしかして若作りしてるオッサンなのか?わからん・・・中身に相応しく白髪に着物姿とかになるべき?でも俺見た目十七歳なんだけど・・・似合わねえだろ普通に考えて・・・。でもじゃあ俺は、どうすれば・・・)
「・・・穂積、俺っていったい何なのかな」
「うん?」
「俺はジジイなのか?オッサンなのか?自分では年下ヤンチャ系男子のつもりだったんだがな・・・」
「・・・年下ヤンチャ系男子??(なんの話だ・・・)」
このあと、一週間ほど真剣に悩んだ。
縁側で爪を切っていると、伊吹がばたばたとやってきた。やかましい、ちっとも落ち着かんのだから、と瑞はため息をつく。
「ねえ、瑞についてちょっと考えてみたんだけどさ!」
「ん?俺についてなんだって?」
何やら興奮気味にやってきた彼は、瑞の隣に座り込むと手にしていた広告紙を広げた。裏の白面に、鉛筆で計算や文字が書き込まれている。
「あのねえ、じいちゃんが瑞を転生させたのが、ほら、昭和のこれくらいの時期なんだよ。須丸(すまる)文庫で、手記を読んでわかったんだけど」
「昭和・・・ああ、そうだな。戦争が終わって、そのくらいの時期だったか」
「そんでねえ、それを考えるとさ、瑞が人間の身体を持ってから約五十年ほど経つことになるんだよ!」
「そうだけど・・・」
それがなんだというのだ?そんなもの今更大発見でもなんでもないと思うのだが。
「瑞のこといつもクソジジイってゆってたけど、人間にしたら瑞ってオッサンなんだね!」
オッサン・・・だと・・・?
絶句する瑞に、無邪気な笑顔が向けられる。
「だって五十歳くらいってことでしょ?」
五十歳・・・
確かに瑞が魂だけの存在から、ヒトの身体に転生して五十年ほどになる。だがしかしだ。
「・・・ちょっと待ておまえ。俺がオッサンに見えるのか?見えんだろ?」
魂の記憶は若くして死んだときのままであるから、外見は二十歳前の若者だ。中身は何千年という時を越えてきた魂であるから、瑞は自分が喧嘩のたびにクソジジイといわれるのは納得できたが、オッサンというのは心外だ。なんか違う、オッサンとジジイは微妙に違う!
「そりゃ見た目は高校生に見えなくもないよ。でも五十歳って言ったらさあ、松田くんちの父ちゃんと一緒だよ?現実見ないとだめだよ瑞」
松田くんちの父ちゃん・・・近所に住む、バーコードヘアーの男性が浮かぶ。
だめだ、肯定してはいけない!瑞は必死で説得する。
「まて伊吹、俺は髪だってふさふさだ。松田くんちの父ちゃんとは違うだろ」
「やー、今まで喧嘩のたびにジジイってゆってごめんね。身体はもっと若いもん、これからはオッサンて言うようにする!」
「 ! ! ! 」
な ん と ・・・ ! ! !
「じゃあね!朋尋にも教えてこよーっと!」
「待て伊吹!なんで俺の名誉を喜々として傷つけようとする!?ジジイでいい!今まで通りジジイにして!!」
なんでだよ、と伊吹が口を尖らせる。
「いつも年寄り扱いするなって言うじゃないか」
「オッサンという言葉のダメージがどれだけのものかおまえはしらんだろう!」
これでも近所のご婦人や伊吹の学校の先生からはモテモテなんだぞ!
年下ヤンチャ系男子なんだぞ!
「・・・そんな怒ることかな」
「爆弾落としておいてキョトンとしてやがる・・・!」
ひとの気持ちがわからんとは、おまえの式神として悲しいぞ。悪口というのは、言われたほうは言ったほうが想像もできないくらい傷つくのだ。
「じゃあわかった!今まで通りクソジジイにしとくよ」
「そうか、ありがとよ。助かった・・・」
「じゃーね」
伊吹は去った。瑞は爪きりに戻る。
「・・・・・・」
待て。何かが違う。
オッサンは回避したけど、クソジジイと呼ばれて喜ぶのは何かが違う・・・。
(えっ俺って普通にいまどきの若者気取ってたけど、伊吹から見たらジジイでありオッサンってことなのかな。あいつ俺をどういう目で見てんだ?)
爪を切る手が止まる。負のループに陥る瑞。
(伊吹には俺が松田くんちの父ちゃんに見えてるってこと?待って俺ってもしかして若作りしてるオッサンなのか?わからん・・・中身に相応しく白髪に着物姿とかになるべき?でも俺見た目十七歳なんだけど・・・似合わねえだろ普通に考えて・・・。でもじゃあ俺は、どうすれば・・・)
「・・・穂積、俺っていったい何なのかな」
「うん?」
「俺はジジイなのか?オッサンなのか?自分では年下ヤンチャ系男子のつもりだったんだがな・・・」
「・・・年下ヤンチャ系男子??(なんの話だ・・・)」
このあと、一週間ほど真剣に悩んだ。