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正常な世界にて

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 こちらへ一直線に走り出す車……。この親子から急いで離れなければ、私も轢かれてしまう。見捨てることになるけど、そこまでの自己犠牲精神は持っていないんだよ。
「きゃ〜〜〜!!」
ところが、恐怖に駆られた母親の左手に、服を掴まれてしまった……。彼女は右手で、息子を抱き寄せている。車のエンジンが叫ぶ唸り声が、恐怖心を盛大に焚きつける。
「は、放してよ!!」
私は酷く焦り、乱暴に親子を突き放してしまった……。その拍子に、母親と息子はその場に倒れこんでしまう。可哀想な二人を尻目に、私は道路脇へ素早く回避した。もしかすると、ハリウッド映画のようなカッコイイ避け方に見えたかもね。

 ……突っ走ってきた車は、私のすぐ横を通り過ぎていく。ミニバンで大きい車だから、背中に気流を感じた。
 それから何秒後かに、多種多様な音たちが、惨劇のマーチを軽く奏でてくれた……。金属が激しく軋む音、ガラスが割れる音、そして、風で転がるゴミ袋のような音が複数回……。そして、何事も無いかの如く、静かになった。

 あの親子は、車に跳ね飛ばされ、ものの見事に死に絶えていた……。母親は、全身の関節をユニークに折り曲げまくり、道路にゴロンと寝転がっている。たぶんうつ伏せの体勢だろうね……。そして、息子のほうは、道路端の側溝に頭から沈み込み、ピクピクと痙攣していた。乾いた泥だらけの側溝を、鮮血がドクドクと流れていく……。
 それから、キチガイ母娘の車は、勢い余ってしまい、電柱に正面衝突して止まっていた。ひしゃげたボンネットから、白い煙がモクモクと上がっている。
 喧嘩両成敗というべきか、キチガイ母娘も即死していた……。二人ともシートベルトをしていなかったらしく、フロントガラスを突き破った。そして、母娘仲良く、頑丈な電柱で頭部をグシャグシャに潰している。あの死に様を見たら、絶対にシートベルトを使おうと決めることだろう……。

 またまた、惨劇の目撃者となってしまった私は、震えつつも落ち着きを取り戻しつつある指でスマホを触り、110番か119番かに電話した。そして、目の前のどうしようもない光景を、相手に思うままに伝えてみせた……。
 通報だけで精一杯の私に、無惨な彼らを、介抱することなど無理だ。なにしろ、電話を切ってからすぐに、私はゲロで道路を汚したからね……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん