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正常な世界にて

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『検査逃れの子供が不良と化す!』
『我が社の発達障害者たちは、こうして成功した!』

 その帰りの地下鉄車内で、目に留まった中吊り広告だ。最近の雑誌は、皆一様に同じく、こういう特集を組んでいる。少し前までは、『発達障害者イコール犯罪者』という偏り方で報じていたはずなのにね……。
 広告に書いてある脳検査とは、生まれたばかりの赤ちゃんへの頭部検査のことだ。脳科学の発展や有能な人材の育成とかをお題目に、このあいだ義務化された。この雑誌は、「それを逃れる連中なんて許せない!」ということを言いたいのだ。とはいえ、どのマスコミも、こんな感情論で報じているのが現状だった。
 また、発達障害者の成功論も最近は人気だ。ぎこちない感じのアスペルガー社長とかが、理路整然と厚かましく持論を述べている。理解できているかは知らないけど、意識高い系のクラスメートが、あの雑誌を昼休みに読んでたな……。
 出生時脳検査により、発達障害者の数はうなぎ登りの様相だった。ある産婦人科クリニックでは、発達障害者の赤ちゃんのほうが、そうじゃない赤ちゃんよりも、格段に多く生まれているらしい。
 ただ、産みの親たちは、自分の赤ちゃんが発達障害者だったことに一安心しているらしい。良くも悪くも多数派だからね……。
 それは世界的な流れらしく、多くの国々で、発達障害者の割合が急増していた。あるアフリカの国なんて、発達障害じゃない赤ちゃんが大虐殺されたぐらいだ……。
 また、それに釣られる形で、精神障害者や知的障害者の地位も上昇していた。なにせ普通の人たちは、発達障害者とそれらの区別なんてできていないからね……。

 ……こんな潮流に対して、私は複雑な思いを抱かずにはいられない。確かに、発達障害者である私からすれば、この潮流は心地良いものだ。しかし、乱暴かつ狂乱な匂いが鼻につく。見た目は綺麗だけど、毒素で満ちているという感じだね。

 だけど、この潮流は勢いを衰えさせない……。多数派は衝動的だ。

 障害者万歳の世間に迎合したかったらしく、警察や防衛関係の役人さんたちは、発達障害者などを積極的に採用していく。ADHDの私からすれば、彼らに銃を持たせてほしくないよ……。
 とはいえ、当事者である私でさえも、こんな本音を言ってはいけない社会になりつつあった……。恐ろしい息苦しさを感じるんだよ。でも、発達障害者じゃない人々は、もっと息苦しいだろうね……。どんな少数派でも、それは少数派でしかない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん