正常な世界にて
「……えっと? どういうこと?」
とぼける高山さん。私が友達関係を維持できるように努力していることなど、彼女にはお見通しのはずなのに……。
「森村は、ボクらの仲がうまくいくように頑張っているんだよ!?」
いきなりキレた坂本君……。彼の怒り顔を見たのは初めてだけど、それほど怖くなくてよかったよ。
まだ教室に残っていたクラスメートたちが、おもしろげにこちらを見てくる。たぶん半分ぐらいは、私の努力を知っているだろうね。ニヤニヤ笑いを堂々と浮かべているヤツもいる。
「でも最近は、そのせいで元気ないんだって! 焼き餅なんか焼かないで、少しはガマンしてくれよ!」
坂本君は、野次馬のことなど気にせずにまくしたてた。怖くはないけど、芯の強さを感じる。
「私がどれだけ気まずい日々を送っているか、わかってる!? それから、私に頼んでどうするの!? 彼女を守ってあげるのは、彼氏であるあなたの仕事でしょ!?」
ところが、高山さんの声のほうが、圧倒的に上位だった……。もちろん、怖さは十分にある。今まで担任だった先生たちが、穏やかな天使に思えてくるよ……。
「……そ、そんなことは……」
彼女の怖い大声をストレートに受けた坂本君は、情けなくたじろいていた……。とはいえ、そばにいた私は何も言い返せない。
確かに、カップルの間に割り込んでしまっていると考えると、自分が気まずくなる。もしも、坂本君と高山さんがカップルで、私が外野の人間だとすると、疎外感も酷く感じて、心苦しくなりそうだ。それに、私がしてきた努力のせいで、彼女をさらに苦しめてしまったかも……。ここで余計な反論なんてしちゃいけないね。
高山さんは、私と坂本君がこれ以上何も言わないのを確信すると、机のカバンを持ち、教室から出ていった。足早かつ怒り顔のままだったため、出入口付近にいたクラスメートが、素早く横にどいた……。
教室にいたクラスメートたちは、憐れみの表情で、私たちを眺めていた。気まずさと心苦しさに襲われた私は、イスにどかんと腰を下ろす。
「…………」
坂本君も同じ心理に陥ってるようだ。すぐ近くにイスがなかったから、彼は床に腰を下ろす羽目になった。