正常な世界にて
【第12章】
具合を悪くした私が、坂本君に介抱されたという出来事がきっかけで、学校での人間関係が一変してしまった……。
男子たちは、「美少女なわけでもないのに、坂本はなぜ森村を大事にしているんだ?」という訝しげな表情で私を見てくるのだ。そして、同じ女子たちは、「羨ましさ少々妬みほとんど」で、わざわざ接してきてくれる……。
私は今や、クラスメートから、グサグサかつドロドロとした視線を向けられているというわけだ……。どういう事情かを伝えれば、少しはマシになるかもしれないけど、それには坂本君の許しもいる。私だけでなく、坂本君も発達障害者だということを明かしてしまうわけなのだからね。どうやら、周囲からの奇異な視線には、早く慣れるしかないようだ。
……だけど、おとなしく慣れを待つわけにはいかない問題もある。高山さんのことだ。どうやら、私と坂本君がカップルとして付き合うことが、ひどく気に入らないらしい……。
今日も朝から何度か睨みつけられている。私と坂本君がお喋りをしていると、彼女は自分の机をガンガンと蹴る。不穏な音が響くので、私と坂本君は自然と黙りこむ。とはいえ、喋り声がうるさかったからかもしれないけどね。
察しのいい何人かのクラスメートが、すっかり急変した彼女の態度に気づいた。彼らの安っぽい推測によると、私が坂本君を彼女から奪い取ったからだという……。なんともよくある原因だね。
でも、今までの態度から考えると、高山さんは坂本君のことを、恋人にしたいとまでは思っていなかったはずだ。どちらかといえば、「女たらし」とか「口の悪いヤツ」として、からかいの対象にしていた。好きだけど、わざとそんな態度を取っているのかなと、あるときふと思い、坂本君が好きなのかとストレートに尋ねたことがある。しかし、
「男友達兼財布としては好きだよ。それにナンパされるのがウザイから、男がいっしょにいたほうが動きやすいでしょ?」
という回答が返ってきた……。彼女らしく、ちゃっかりしていたよ。
すると彼女は、友達兼財布を私に奪われたと思い、ああいう冷酷な態度を取っているのだろうか……。そうすると、私と坂本君があのバイトを辞めたときの件も、こういうことが原因だというわけだね。
もちろん私は別に、彼女をのけ者扱いなんてしていない。だけど、一連の惨劇のことを考えると、うまく割り切れず、自然と避けてしまいがちなところはある……。