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正常な世界にて

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 嫌われおじさんは、デブ女に強烈な体当たりを喰らわされた……。前のめりで勢いよく飛ばされた彼は、店の大きな一枚ガラスに、頭から突っ込む。ぶつかった頭の部分だけ、ガラスが割れ落ち、彼の首から上だけが店外へ突き出た……。割れたガラスの鋭利な端が、彼の首に喰いこみ、血が流れ始める。
 そんな情けない姿である嫌われおじさんの体を、ヤセ女二人が激しく揺らす。その振動により、彼の首がグサグサとえぐられていく……。千切れた頸動脈からドクドクと流れ出る血が、一枚ガラスを赤透明の物へと変えていく。彼はもう出血多量で死んでいるかもしれないね。

 もはや観客の一種でしかない私たちは、そんな光景を呆然と見ていた。正常性バイアスというやつかな? こういう惨劇は最近何度も経験しているけど、私の体はまだ慣れていないようだ。慣れていいのかは別としてね。
 なんとか我に返れた人たちは、次々に店外へ逃げていく。
「チョットチョット! お金払うネ!」
起き上がった中国人ウェイターが、その人たちを引き止めようとしていた……。意外と真面目な人間らしい。
「ウルサイウルサイ!!」
手持無沙汰のデブ女は、そんな騒々しさが気に障ったらしく、包丁を振り回しながら、周囲の客を襲い始めた。さらに騒々しくなる店内。
 私たちは、テーブルの下に急いで隠れたけど、このままでは危ない。デブ女の攻撃や、中国人ウェイターの引き止めを避けて、素早く逃げなきゃいけないから、難易度はハードだね……。

「アイヤー!! アイヤー!!」
そのとき、店のコックらしい初老男性が、厨房から飛び出してきた。変な日本語から、彼も中国人だとわかる。「また変なヤツが現れたよ」と、呆れ顔で呟く坂本君。私も同じ気持ちだ。
「ワタシの店で暴れるんじゃないアルヨ!」
え? ここって、中華料理屋だったの? 店の内装は、明らかに洋風だ。
 中国人コックは、両手に中華鍋を一つずつ持っており、メンヘラ女三人組と戦うつもりらしい。ジャッキー・チェンのようなカッコよさは無いけど、今は贅沢を言うときじゃないね。

「やんのか!? やんのか!?」
「あっちいってあっちいって!!」
「コロスゾコロスゾ!!」
三人組は中国人コックに襲いかかる。中華鍋二つを素早く構えるコック。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん