正常な世界にて
「よかったよかった♪」
何足かの靴下を持ち、嬉しそうな坂本君。ようやく、こだわりの色のやつが見つかったようだ。彼はスキップでもするかのように、レジへ向かっていく。可愛いけど、まるで小学生だね……。
「いらっさいましぇ!」
レジにいた店員は、どうやら軽い知的障害を持っているらしい女性だった。独特な顔つきがそうだと告げている。
「ブラックだけど、ユニクロは障害者雇用に積極的だって聞いたよ。ブラックだけど」
会計を終えた坂本君が、小声で教えてくれた。とはいえ、ブラック企業の罪滅ぼしとして、障害者雇用されるのはちょっとね……。
買い物が一通り終わったところで私は、自分のおごりで喫茶店に行くことを提案する。
「いいの? 服を買ったし、お金は足りるの?」
失礼な。お金の管理はちゃんとしているつもりだ。
「大丈夫だよ。手帳を取るまでに、いろいろお世話になったから、そのお礼をさせて」
私たちは、栄の地下街へ降り、空いている喫茶店を探す。
夕食の時間帯だったため、混んでいる店はレストランばかりだ。なので、意外と早く喫茶店の席につくことができた。でも今に満席になるだろう。
「アイスコーヒーを三つ、お願いします」
「ハイアルヨ!」
ウェイターは、中国人の若い男だった。よくある変な日本語を話すらしいね……。
「障害者手帳を取れて良かったね。坂本君じゃなくて私を頼ってくれればよかったのに」
「でも高山さん、あのバイトで忙しそうだし……」
辞めた身である私は、罪悪感を感じる。
「大丈夫大丈夫。それに、最近は少し楽になってきたし」
仕事が減ったということはつまり、犠牲になる人が減ってきたということかな? このままゼロまで減ってくれることを願うよ……。
「おいおい、あそこのおっさんを見てみろよ?」
坂本君は小声でそう話すと、アゴでその方向を示した。
田舎者丸出しのおじさんでもいるのかと思ったけど、そんな感じの人はどこにもいない。男性客の多くはノートパソコンを開き、女性客の多くは本を開いている。よくある喫茶店の光景だ。