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正常な世界にて

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「どうだった?」
診察室から出るなり、高山さんが近寄り尋ねてきた。
「そ、それがね。先生はADHDだって……」
私はそう答えたものの、どこか他人事のような感覚でいた。自分は精神関係の障害を持っているのだという実感が、なかなか湧かないからだ。

 とりあえず、会計を待つために、待合室のソファに座った私と高山さん。
「自分がADHDだとわかる人が、最近増えているよ」
インフルエンザのように、よくある病気なのだろうか。
「あ、あの、高山さんもADHDなの?」
「……ううん、別の病気だよ」
私とは違う病気らしい。どんな病気なのかが気になるけど、聞かないほうがいいかもしれない。
 外見も中身も美人な彼女のことだから、きっとたいした病気ではないだろう。それに彼女も、頭の病気を持って生きているのだ。私も頑張らなくちゃいけないね。

「森村さん、お会計をお願いします」
受付女性が私を呼んだ。ソファからスッと立ち上がり、ポケットから財布を取り出しながら向かう。
「もしお金が足りなければ、ワタシが立て替えるよ?」
「ありがとう。でも、大丈夫そうだから」
薬代もあり、財布の残り具合は正直心配だ。けど、これ以上彼女のお世話にはなれない。


 それから二十分後の帰り道。私と高山さんは、栄の地下街を再び歩いている。ただ、私の足取りは非常に重い……。
 ADHDが判明したせいでもあるが、私の財布の中身が、悲惨なことになっていたからだ……。健康保険のおかげで三割負担だったけど、私の財布からお札が消え去るほど、医療費と薬代がかかってしまった。
 初診代も高かったが、それよりも格段に上なのは薬代だ。私に処方されたのは、『ストラテラ』というADHDの薬なのだが、風邪薬とは比べ物にならないほど高かった。ぼったくりに遭っているのではないかと思えるほどだ。しかも、これは少ない処方量で、まだ安いほうらしい……。
「お、お小遣いが……」
思わずそう嘆いてしまう私。この分だと、お小遣いはほとんど残らないだろう。ごくたまにお菓子を買えるぐらいだ。
「もうじき、今回の三分の一の値段で済むようになるから、それまで耐えてね」
「ええっ?」
ありがたい話に、私は飛びついた……。つまり、自己負担は一割で済むわけだからね。
「『自立支援医療』という制度でね。継続して通院治療を受ける場合に利用できるんだよ」
どうやら、彼女も利用してるらしい。節約のため、この制度を利用しなければ!

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん