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正常な世界にて

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「森村さんは、ADHD(注意欠陥多動性障害)ね」
診察医である女性は、はっきりそう告げた……。真剣な表情と口調で。
「ホ、ホントですか!?」
「ええ、まず間違いないわ」
その診断結果は、高山さんが予想したものと同じであった……。頭関係の病気だとはわかるけど、具体的にはどんな病気なのだろうか。怖いが気になる。
「ADHDというのは発達障害の一種で、根本的に注意力と集中力が弱い障害です」
私が尋ねるまでもなく、診察医のほうから説明してくれた。
 注意力と集中力が弱いと聞き、私は思い当たることが多いと感じた……。周囲は、私のやる気や努力の足りなさを指摘し、自分でもそう納得していた。
 発達障害が原因とわかり、意外にも私は一安心できた……。

「授業中に立ち歩いたりは?」
「……してません」
そこまで酷くない。まあ、上の空状態になることはあるけど。
「アルバイトは何かしてる?」
「バイトはしていませんし、したこともありません」
私の高校は、校則でバイト禁止だ。クラスメートの何人かは、こっそりやってるみたいだけど。
「それならいいんだけど。ADHDの人が一番困るのは、社会で働く場面なのよ。あなたの場合だと、少し先になるけど」
注意力や集中力は、勉強にも絶対欠かせない。けど私には、それらが根本的に欠けてるわけだ……。
 どうすればいいんだろう? 将来がますます不安に思えてくる。
「すると、私はどこでも働けないんですか?」
もしそうなら、ニート一直線だ……。一昔前なら、結婚して専業主婦になればよかったけど、今は難しいのが現実だ。
「……そういうわけではありません。注意力や集中力がそれほど求められない仕事もありますし、対処してなんとかなる人もいます」
どんな仕事なのかは思いつかない。少なくとも、注意力や集中力がまったく求められない仕事など、この世には無いだろう。
「どう対処すればいいのでしょうか?」
「メモをちゃんと取ることはいいけど、電話中のメモ取りは無理という人が多いわね。まあ、薬を活用するという手が一番だと思う」
「く、薬ですか……」
睡眠薬や精神安定剤を使わなくちゃいけないのかな。薬漬けで暮らすなんて……。
「子供でも飲める軽めの薬を処方しておくから、それで様子をみて」
診察医はそう言った。子供向けの軽い薬なら、まあ大丈夫だろう。もし合わなければ、駅のゴミ箱にでも捨てちゃえばいい。

 ……こうして初診が終わった。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん