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正常な世界にて

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 診察室内は、患者に刺激を与えないようにするためか、ゴチャゴチャした物は置いてなかった。机やイスなどの家具は、内科にあるような金属剥き出しの物ではなく木製だ。部屋全体の配色が、穏やかな暖色系で統一されている。
 また、患者を少しでも安心させるために、分厚いカーテンが窓に引いてあった。

 そして、部屋にドカンと置かれた机には、診察医である女性がいた。私の予想だが、年齢は四十代前半だろう。医者らしい白衣を着ている。
「こんにちは、森村さん」
診察医の女性が挨拶してきた。
「こ、こんにちは」
少しぎこちない返事になっちゃったけど、緊張しているんだから仕方ない。
「これは予想だけど、学校でうまくいっていない?」
診察医が尋ねてきた。簡単なことだが、まさにその通りだ。
「……はい」
認めたくなかったが、私はそう言った。
「勉強がわからなくて困ってる?」
「いいえ。学校の成績は中レベルです。ただ、生活のほうで困っています。たとえば、忘れ物とか遅刻ギリギリとか」
「ああ、あなたの症状は、もうわかったわ」
まだ話の途中だったが、診察医は断言した。まるで、簡単な計算問題を解いたかの如く。
「ほ、ほんとですか?」
とても信じられなかった。
「ええ。でも念のため、ペーパーテストをしてもらいます」
「テストですか?」
高校生である私は、「テスト」という単語につい反応してしまう……。難しい問題ばかりだろうか? もし全然解けなかったら、重病扱いかな……?
「安心して。普段のことについて答えればいいだけのものよ」
診察医はそう言うと、A4サイズのプリント一枚とボールペンを渡してきた。

 そのプリントには、『用事などをうっかり忘れてしまったことは、よくありますか?』とか、『いてもたってもいられなくなることはありますか?』といった質問事項があった。そのような質問に対して、五段階評価で答えればいいだけだ。
 思い返しながら、答えを記入していく私。幸か不幸か、全部で十問ちょっとしかなかった……。
 答え終わってみると、「よくある」という回答がほとんどだった。一見してみると、素人の私でも、マズい結果が待ち受けてることぐらいわかる……。
「ふんふん」
私の回答が書かれたプリントを、診察医は目を通す。そのときの彼女の表情は、「やっぱり思った通りね!」というものだった。
 彼女は、プリントを机に置くと、私の顔を見る。診断結果をさっそく告げる気だ。あの、心の準備が……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん