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正常な世界にて

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 ……駅前のバスターミナルは、チェーンソー男により、パニック映画の見どころシーンのような光景に成り果てていた。男はチェーンソーで、人を次から次へと血まみれの姿へと変えていく……。
 無我夢中で逃げまとう人々、狂ったように連呼される悲鳴。慌てた車同士が正面衝突し、その酷い光景への発展に尽くした。狼狽えたあげく、バス停の大きなガラス壁に激突してしまう人もいる。割れたガラスの破片が、その人の両目をダメにした。
 数人の警官が駆けつけていたが、逃げまとう人々への対応に気を取られ、チェーンソー男を相手にする余裕がなかった。
 なんとも酷く惨いそれが、実際の目の前で繰り広げられているのだ……。だから、駅についてからしばらく、私と坂本君は呆然とそれを眺めているしかなかった……。

「キチガイめ!! この私が相手だ!!」

 そのひときわ大きな叫び声で、私と坂本君は我に返る。声の主は、あの生き残り男だ。しかし、死亡フラグのセリフだね……。
「とうとう現れやがったな!! 卑怯者どものボスめ!!」
チェーンソー男も負けじと大きな叫び声で返す。威勢が大事なのはわかるけど、もう少し声のボリュームを下げてほしい。
「ボス? ……いや、相手にしてはいけないな」
生き残り男はそう言うと、チェーンソー男へ突進していく。イチかバチかで、無理やり押し倒してしまうらしい。私なら怖くて絶対にできない行動だ。


 だけど、現実は厳しい……。チェーンソー男が、うまくタイミングを合わせる形で、生き残り男の頭頂部にチェーンソーを振り下ろしたのだ。もちろん、そのチェーンソーは、トゲトゲの刃が勢いよく回転している……。
「ギィエエエエエエエエ!!」
連続する激痛を喰らい、生き残り男は悲鳴を上げ続けた。男の狂ったような悲鳴に競争するかのように、チェーンソーも激しい金属音を上げている。
 引き千切られる肉片。飛び散る鮮血。そして、彼の残り少ない髪の毛が、刃に刈り取られていった……。刃に絡まった肉や髪の毛が、摩擦熱で焼けて、焦げ臭い匂いを漂わせる。
「エエエエエエ!! ……エエエ……」
最後に弱々しい悲鳴を上げて、血まみれの生き残り男は死に絶えた……。チェーンソーの刃は、彼の額部分に達していた。中にある脳みそは、飲むゼリーみたいな状態になってるだろうね……。

 私と坂本君は、少し離れた所でその「チェーンソーアートづくり」を見ていたわけだけど、すぐ目の前で繰り広げられているような臨場感があった。しかし、実感が湧かない……。惨たらしい残酷さは感じるけど、映画の中のワンシーンを観ているような感じもするのだ……。
 もしかすると、クラスメートの木橋が死ぬところを見たせいで、感覚がもう慣れてしまったのかもしれない……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん