正常な世界にて
頭部に喰いこんでいるチェーンソーが、ギュルルルという異音を立てた後で停止した。どうやら、髪の毛や肉片が刃に絡まり、故障したようだ。さらに、喰いこみのせいで、チェーンソーは頭部から離れようとしない。使い物にならなくなったわけだ。
チェーンソー男は、苦々しそうな表情で、生き残り男の死体を見ている。まるでまだ目的を果たせていないみたいだ……。
「抵抗するな!! お前を現行犯逮捕する!!」
チャンスと見た警官たちが、チェーンソー男の身柄を確保しようと動き始めた。手には伸縮式の警棒が握られている。もう腰のピストルを使えばいいのに……。
しかし、チェーンソー男は気にせずに、目的の完遂へ動く。
「ウオオオオ!!」
重いチェーンソーを上下に振り、生き残り男の死体を、地に何度も叩きつける……。繰り返される衝撃で、手足がボキボキと折れていった。
「リミッター外れてるな……」
坂本君が、引きつり笑いを浮かべながら言った。本当にすごい腕力なのだ……。
「や、やめるんだ!」
警官がチェーンソー男に呼びかけたが、完全に無視されている。六人もいるんだから、飛びかかるぐらいしろよと思った。とはいえ、私なら怖くて、先陣を切れないだろうね……。
パァン!!
突然、風船が割れるような大きな音が、一瞬だけ鳴り響いた。間違いなくそれは銃声だった。今度はガンマンでも現れたのだろうか?
「ウウウッ!」
チェーンソー男がうめき声を上げる。両手からチェーンソーが離れ、ガシャンと地に落ちた。そして、すごく痛そうに腹を押さえながら、その場にうずくまった。どうやら、今ので撃たれたらしい。
「おい!! 早く取り押さえろ!!」
停車中の路線バスの向こう側から、大声が聞こえた。応援の警官が来たのかな? 発砲して命中させるとは、なんて勇敢な人だろうか。
「コイツは敵のボスなんだ!! 俺は身を守るために戦っただけだ!!」
警官たちに取り押さえられながら、チェーンソー男は叫ぶ。撃たれてケガをしているとはいえ、まだ戦意が残っているらしい。警官が一人だったら、勢いよく振り切られてしまいそうだ。もしそうなったら、惨劇の再開だ……。
「いい加減にしろ! これ以上抵抗するなら、また撃つぞ!?」
スーツ姿の若い男が、ピストルを構えている。周囲にいる警官の反応から、その男は私服警官らしかった。
「あれ? あのポリ、学校に来たヤツじゃないか?」
坂本君が思い出したように言った。
……確かにそうだ。私のかすかな記憶が、顔を一致させた。あのスーツ警官は、ウチの学校に話を聞きに来た警官のうちの一人だ……。