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正常な世界にて

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 結局、駅から十五分ほど歩いたところで、私たちは目的地に到着した。
「ホントにここ?」
「うん、そうみたい……」
スマホの地図は、私たちの目の前にある家が目的地であることを、しっかりと示している。だけど、この家を見た途端、スマホが故障しているんじゃないかという疑問が湧いたことは否定しない……。

 その家は、見る人に強烈な第一印象を与える和風の一戸建てだった……。窓という窓はすべてアルミホイルで覆い隠され、家のあちこちにカメラや反応するライトが取り付けられている。
 狭苦しい庭は、雑草が縦横無尽に伸びまくり、門から玄関までの道は獣道みたいだ。門にある薄汚れた表札は、この家の主が「瓜生」という苗字であることを寂しげに伝えていた。表札があるということは、空き家じゃないということかな? もしかすると、家の中はもっとすごいのかも……。
 私たちが無言で、その家を眺めていると、近所の人っぽいおばさんが、背後を足早に通り過ぎていった。その際に私たちは、ジロジロとした冷たい視線を浴びた。「この子たちは、こんなところで何をしているのかしら?」という疑問を抱いている感じだ。

「……どうやら、この家に住んでいるのは、かなりヤバい奴らしい」
「カメラがたくさんあるということは、お金持ちやヤクザの人の家ってことだよね?」
小声で話す私たち。面倒事はもちろん嫌だ。そろそろ帰ったほうがよさそうだね。
「いや、五分五分の確率だけど、もっとヤバい奴だよ……」
「ど、どんな人?」
まさか、吸血鬼とか言い出したりしてね。
「……森村さんは、アルミホイルを何に使ってる?」
「え? 手でチキンを食べるときかな? あとたまに、お菓子作りで」
こんなときにも、女子力アピールを忘れない私……。
「それならこれは初耳だろうね。世の中には、アルミホイルで電波から、自分の身を守ろうとする人がいるんだよ」
「ア、アルミホイルで電波を?」
自宅のキッチンの戸棚にあるアルミホイルを思い出す私。バリバリバリとホイルを握り潰す音が聞こえてくるようだ。電波がどんな強さなのかはわからないけど、とてもアレで防げるとは思えない……。
「紙のように薄っぺらいアルミホイルなんかで、電波攻撃を防げるなんて、ボクは思ってないよ。だけど、あの家の主とかは、宗教のように信じてる」
「そ、それでどんな人なの?」
アルミホイルはもういいから、早く教えてほしい。
「……ボクや高山さんが何度か口にしたけど、『統合失調症』という精神障害を患っている人だよ」
彼は、声を潜めながらそう言った……。しかも、あの家のほうを、何度もチラ見しながら……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん