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正常な世界にて

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 その帰り道、私は高山さんにお給料の使い道を尋ねた。彼女の家はお金持ちだったはず。それに彼女の両親は、障害について理解があり、医療費は家持ちとの話。正直羨ましい。
「お気に入りのホストでも」
「将来のための貯金だよ」
坂本君の声を脇へどかす形で、高山さんはそう言った。
 名古屋人らしいお金の使い道とはいえ、お金持ちの子供である彼女がする必要あるのかな?
「森村さんも、お金に余裕があるなら貯金したほうがいいよ。それで貯まったら、純金にかえておくの。いざという時に備えてね」
「ええっ、なんで?」
「純金なら価値がほぼ下がらないからね。どんな国や政治下でも、お金として使えるよ。保証する」
テレビでよく見る金塊を思い出す私。触れたことすらないけど、確かに純金には、光り輝く魅力を感じる。手に届く値段なら買いたいもの。

「なぜ私の家族は死ななければならなかった!? なぜ彼は生きているのか!?」
純金を思い浮かべていると、がなり声がスピーカーで耳に入りこむ。私たちはいつのまにか、駅まで歩いてきていた。
「またまた死に損ないが、説教垂れてるよ……」
坂本君がウンザリした調子で、駅前の広場を見ている。
 広場の一角を陣取る形で、中年男性がスピーカーで喋っている。周囲のスタッフが、A4サイズのチラシを通行人に配る。
 状況から政治家の演説か新興宗教の宣伝かなと思ったけど、そうではないと徐々にわかる。
 「精神病患者は隔離を!」とか「安全な社会を求む!」といったのぼり旗が立てられ、「私の家族は無駄死になのか?」とプリントされたジャンバーを着ていた……。なるほど、私のような人間を歓迎してくれる人種じゃない。下手すれば、八つ当たりされるかも……。
「いくら家族を統合失調症の男に殺されたからって、精神障害者やら全員を憎まなくてもいいのにな。もし三重県民に殺されていたら、三重県民全員を憎むつもりなのかね……」
愚痴る坂本君。ああ貴重な正論を吐いたね。
 私たちは彼らのチラシ配りを、構わずスルーしやり過ごした。ポケットティッシュ付きでも、そんなチラシは受け取らない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん