正常な世界にて
「えっと、これぐらいかな?」
紙袋から一掴み分の封筒を抜き出す私。ポスト一つにつき、なかなかの量を入れてほしいと、高山さんから指示されてる。私や坂本君が、うっかりミスしてしまうことを見越してか、紙袋の内側に『一つのポストに一掴み分を入れること!』という注意書きがしてある。
「んっ?」
一番上の封筒を見回し、奇妙な点に気がついた。
宛て先は書いてあるけど、送り元が書かれていない……。書き忘れかと思ったものの、他の封筒も同様だ。ただひょっとすると、封筒内の紙に、送り主が明記されてるのかもしれない。個人情報保護とかで。
それ以上気にせず、一掴み分の封筒をポストへ入れる。入れる所は丈夫だし、押しこむようにしっかり入れた。初仕事の第一歩が、これにて完了したわけだ。私にとっては大きな一歩だと思う。
さて、次々。
「全部出してきたよ!」
私は仕事部屋に帰るなり、高山さんにそう言った。初仕事をやり遂げたことによる興奮で、大きな声を出してしまった。恥ずかしい……。
「順調な出だしだね。じゃあ、まだあるからお願い」
高山さんは微笑みながら、封筒入りの紙袋を渡してきた。彼女の仕事は、封筒の検査と紙袋への詰めこみだ。
「……あれっ? 宛て先がさっきと同じだけど大丈夫?」
その点は、ポストに入れて回っている際も気になったことだ。封筒に書かれた宛て先が全部同じだった。
「えっ? 間違っていないはずだよ?」
検査した彼女自身がそう言っているのだから、それは確かなのだろう。
「宛て先が同じなら、ダンボール箱でまとめて送ったほうが、楽だし早くない?」
意見を言わずにはいられなかった。こういう感じに、思わず口走っちゃうのも、私の短所だ……。
「大事な封筒だから、別々で送るということじゃない? ダンボール箱でまとめて一つなんて、雑な感じがするからね」
高山さんはそう言った。決まりきった言葉に聞こえたけど、私はひとまず納得した。部屋中の視線が、自分へ鋭く刺さっていることに気づいたし……。
「じゃ、じゃあ、また行ってくるね!」
封筒の詰まった紙袋を手に取ると、私は仕事部屋から飛び出した。