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正常な世界にて

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 ――帰宅し、風呂と夕食を済ませた私。いつも通り私は、ベッドで横になる。机に向かう気にはなれない。
 うつ伏せでスマホをいじり、ニュースを一通りチェックする。トップページのリストに、駅で知ったあの殺人事件が入っていた。他のニュースはつまらなそうだし、あれを詳しく調べよう。
 ……同じアパートに住む加害者と被害者は、騒音トラブルで去年から争っていた。それは激化し、終止符が今朝打たれたわけだ。ハッピーエンドにはほど遠い。
 気になった部分がいくつもある。他人事と思えない文が散見していた。

“逮捕された男には、精神科への通院歴があるとの事です。”
“検察は男の責任能力を調べるため、鑑定留置を検討中です。”
“接見した弁護士によりますと、男には発達障害の傾向も見られるとの話です。”

 発達障害者である私に、ズキズキと突き刺さる文の数々……。攻撃的な表現ではないけど、当事者に配慮してほしいと思える。贅沢言えば、一切触れないでほしいぐらい。でもこの情報社会だと、それは難しいんだろう。
 思い返してみると、こういう事件が最近頻繁に起きている事実に気づく。単に自分が気にするからだろうけど。

 スマホのラインを使い、この事件について再度、高山さんと坂本君に尋ねてみる。私たち三人だけのグループだ。坂本君が意味不明なスタンプを乱発してくるので、普段はあまり使わない。
 こういう事件が起きたりしたときは、当事者同士で話をしたほうが、前向きになれるかもしれない。
“メディアは、話題になるから、わざわざ精神科への通院歴を持ちだしてくるんだよ! 歯科への通院歴なんて持ち出してこないでしょ?”
“大丈夫大丈夫! どうせ一週間も経てば、みんな違う話題に夢中だろうさ! 今年の始めぐらいに、テロリストに人質にされて殺された男二人の名前、まだ覚えてる?”
さっそく返信が届いた。少し悲惨な交通事故が起きたような感覚らしい。慣れてるのかな?
 この二人は気にしていないといえ、話題は軽いものじゃない。とはいえ、話が深まれば深まるほど、重苦しい雰囲気になるかも。そこで話題を変えることにした。
 すぐさま思いついた話題は、お財布事情だ。お金の話は、子供の頃から死ぬ寸前まで付きまとうもの。お金が足りなくて困っているという話を持ちだした。無難でよくある話だ。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん