正常な世界にて
「そうかい。それをみんなの前で、勝手にカミングアウトされたんだから、彼を良くは思ってないね?」
これも初老刑事。動機を確実なものにしたいらしく、私は胸にざわめきを覚える……。最悪の流れは避けたいところ。
「ご存知だと思いますが、この国は、精神障害者や発達障害者にとって大変厳しいです。できることなら秘密にしておきたいのが、当たり前の考えだと思いますが? あなたは秘密をばらされても、全然怒らない人間ですか?」
攻める高山さん。ああ、なんとも心強い。
それ以降の聞き取りは淡々と済んだ。私たちのした行動が、罪に問えるほど問題じゃないと判断したんだろう。私や坂本君への質問もあったけど、高山さんが助け舟を出してくれるおかげで、失言せずに済む。刑事は揃って困惑していたけどね。
「えっと以上です。いろいろ教えてくれて、どうもありがとね」
若い刑事が最後に言った。その横で初老刑事が胸糞悪そうにしている。
そして二人の刑事は、応接室をドタドタと急ぎ足で出ていった。定時が近いのだろうか?
――その日を境に、木橋が「事故死」した件は、話のネタとして急速に古びた。世間で流れるニュースと変わらない。余裕のない人間の多い現代社会では、他人の事なんてどうでもいいわけだ……。刺激的な続報があれば、なかなか古びないものだけど、木橋の件では、続報がゼロだ。
まあ私たちからすれば、さっさと風化してくれたほうが好都合だ……。