正常な世界にて
――閉園まであと一時間という頃、ついに動物を見終えられた。西の空はもう、オレンジ色に染まり切っている。美しい夕焼け空もあり、満足感を覚える私。
私たちは出入口のゲートへのんびり歩く。今日はホントに歩いたものだけど、疲れは重く感じない。
「ふぅ、疲れたー」
額の汗を拭い、そう言い漏らす坂本君。まだ七月にもなっていないのに、確かに真夏が来たような気はする。
「この後はどうする? カラオケでも行く?」
さすがに体力の限界だ。高山さんは遊び慣れているから、あまり疲れていないのかな?
「歌う力なんて、もう残っていないよ〜」
「それもそうだね」
幸い、坂本君がうまく返事してくれたので、カラオケの話はお流れになった。
「じゃあ、駅で解散ということで」
「明日は学校か〜。足の筋肉痛で休むかも」
「私も……」
久しぶりにたくさん歩き回ったせいで、確かに数日は筋肉痛で苦しみそうなんだよね……。
「そんなこと言わない! ADHDなんだから、いつもアクティブでいないと!」
変なことを言い出した高山さんだった……。とはいえ、登校ぐらいはしないとね。ADHD&筋肉痛のせいで、授業に全然集中できないだろうけど……。
「ところで帰りがけにアレだけど、木橋君の件ね」
高山さんは真面目な顔に豹変すると、そう言い出した……。
「なんだよ。楽しい思い出のクライマックスというときに」
嫌なことを思い出してしまったという感じの坂本君。
「ごめんなさいね。でも、今話しておいたほうがいいと思うから」
彼女はそう釈明すると、周囲をチラリと見回す。
「明日ぐらいに、警察が学校に来て、木橋君の件を聞いてくると思う。だけど、見殺しにしましたなんて、絶対に言っちゃダメよ」
「……おっ、口裏合わせ?」
坂本君が苦笑いを浮かべながら言った。
「悪く言えばその通りだけど、みんなのためだよ? みんながこのまま過ごすためのね」
死んだ木橋本人は納得できない話だろうけど、見殺しにしたということを警察に言わないほうが、みんなの幸せになるという話は理解できる。もしバカ正直に話せば、自分たちだけでなく、周囲も不幸になるに違いないのが現実だ……。