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正常な世界にて

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 昼食後は、まだ見ていない飼育場を見て回ることにした。まだ昼食の時間帯であることを活かし、混み合いそうな場所を優先するのだ。そのおかげで、イケメンゴリラの面構えをゆったり眺めることができた。
「あのゴリラ、ボスだから幸せそうだな。たぶん、いろんなメスと遊び放題だろ」
変な羨ましさを感じている坂本君……。
「人間だけじゃなくて、他の動物も、ああいうふうに理想の世界を持ちたがるものなのよね。つまり、あのゴリラはそれを実現できたということ」
「実現できなかったら負け?」
彼女の話に合わせることにした私。
「それはそうよ! 絶対負けたくない!」
「じゃあ、高山さんにとって理想の世界はどんなの?」
私がそう尋ねると、高山さんは十秒ほど考えこんだ。
「そりゃあ、私や森村さんのような障害者が幸せに暮らせる世界だよ。簡単な話じゃないのは、わかってるけどね」
「ああ、私もそうなってほしい」
本心からそう言った私。これからも彼女と話が合うといいな。

「ああ、飼いたいなー! ハリネズミ!」
窓ガラスに顔を押し付けるようにして、坂本君はハリネズミを見つめていた。
「坂本君は、もうペットは飼わないほうがいいと思うよ。小学生のとき、女の子から預かったハムスターを死なせちゃったんでしょ?」
畜生なエピソードだ……。あくまでも予想だけど、飼い主の女の子には、キスかデートで許してもらったに違いない。
 とはいうものの、私も人のことを言える立場ではない。私の場合は、動物ではなく植物だが、アサガオとかを育てる度に、水やりをうっかり忘れて、枯らしてしまうのだ……。悲しい話だけど、私と坂本君は、何かを育てることはしないほうがいいのかもしれない……。
 私と坂本君が持っているADHDは、やるべきことをつい忘れてしまいがちなのだ。その結果、雑用が多い日直などを任されると、毎回のように、失敗をしてしまう……。
 もちろん、努力していないわけではない。だけど、しばらくは薬の効能に期待するしかないね……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん