正常な世界にて
高山さんの料理の腕前は、一流そのものだった。彼女のような美少女でよくある話としては、料理下手という設定が多いけどね。この分だと、他の家事も手馴れているに違いない……。才色兼備の上、主婦業も堪能な高山さんに、私が勝てる要素は何かあるだろうか? 考え始めた途端に悲しくなる……。いや、あまり深く考えるのはやめておこう。
「おお、うまい! うまいよ、高山さん!」
口をモグモグさせながら、坂本君が褒めちぎる。グルメリポーターのようにうるさい口調だ。
「ボクは肉料理が大好きなんだ!」
坂本君はそう主張しながら、肉団子や唐揚げをどんどん食べてしまう……。みんなの分を考えてほしい。
「高山さん? すごく美味しい肉だけどさ、まさか猫の肉とかじゃないよね?」
口いっぱいに頬張りながら、失礼な質問を飛ばす坂本君……。もし変な肉だったら、一気に吐き出すつもりかな?
「正真正銘の牛肉だよ。坂本君も発達障害者なのに、何か偏見を持っているの?」
「ごめんごめん! でも、『発達障害は狩猟民族の名残』という一説があるから、猫ぐらい狩ってもおかしい話じゃないと思わないか?」
「狩猟民族って言葉、現代ではいい印象を持たれていないけどね」
「だけど、動物を狩るのはダメで、植物を刈るならいいというのは、なんか変じゃん?」
「それが人間のエゴというやつだよ」
高山さんがそう言うと、話に一区切りがついたようだ。この話に入れなかった私は安堵する。
「い、今のところ、コアラが一番可愛かったね!」
理解不能な話がまた始まる前に、話題を移さなくては。
「なかなか立派な飼育場だったな。空調とかすごそう」
「新しい建物で浮いているから、そう感じるだけよ。もう何年か経てば、周囲と同化するわ」
建物じゃなくて動物の話をしてよ……。
こうして、昼食タイムは過ぎ去った。話のズレはあるけど、楽しいひとときにはなったね。