正常な世界にて
「絶対入りたくない! 私はキチガイじゃない!」
私はまともだ! 精神科に診てもらう必要なんてない!
「森村さん待って! これが一番いい方法なのよ!」
高山さんが、帰ろうとする私の前に立ちはだかった。クラスメートである彼女にキチガイ扱いされていたと思うと、悲しくなる……。
「どいてよ! 私は大丈夫だから!」
「入学したときから、こっそり見守っていたけど、全然大丈夫には見えないよ!」
帰ろうとする私を止める彼女は、真剣そのものだった……。私のことを、心の底から心配してくれているようだ。彼女に悪気が無いことはわかる。
しかし、精神科の世話にならなくても、努力すればなんとかなるはずだ。子供の頃から、必死に努力すれば、どんな目標でも達成できるはず!
「自力で治せるよ!」
彼女を安心させるため、私は強気に言った。
「ワタシの予想だけど、森村さんは『ADHD』(注意欠陥多動性障害)だと思う。薬にも頼らずに、自力で努力しても、マシになる程度だよ」
聞いたことのない病名だ。精神科関係の病気であることは確かなので、ろくでもないものだろう。
「どうして、私がそんな変な名前の病気になっていると言い切れるの!?」
思わず言葉を荒らげてしまう。
「……ワタシも似たような病気にかかっているから。ここの患者なのよ」
彼女はそう告白した……。嘘をついている様子は無い。
「え? え? え?」
間抜けな声を連発する私。美しい外見と性格を持ち、みんなから人気がある彼女が、なんで精神科通い?
……ここで私は、ハッと息をのんだ。
学校での振る舞いを見ていた限り、彼女がキチガイでないことは明らかだ。しかし、彼女は彼女なりに苦しんでいる。それなのに私は、自分をキチガイとして扱うなという失礼な振る舞いをしてしまった……。罪悪感が私に襲いかかる。
「あなたが楽になるには、この道しかないの! ワタシを信頼して!」
彼女は私の両肩を掴み、そう言い切った。
「……わかった。高山さんを信じるからね」
「ありがとう」
とにかく今は、彼女を信頼する。
回れ右し、クリニックへ向かう私。彼女は先頭に立ち、メンクリのドアを開けてくれた。そして、彼女と共に。