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正常な世界にて

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【終章】



 十一月中旬のある朝、私の目は茶色の作物に釘付けだった。
 右手に握るのはピストルではなく、コルクのクリップボードだ。頭上から照らすのは蛍光灯じゃなく、秋空の穏やかな太陽。

 畑の中をゆっくり歩きながら、大豆の実り具合を確かめる私。足元で列をなす大豆畑は、私たちのコミュニティの一角を占める。畑のド真ん中では、薄汚れた白シャツ姿のカカシが、枯れ葉混じりの秋風に吹かれ揺れていた。
「やっぱり今日の午後、いや昼前から収穫始めなきゃね」
茶色く実った大豆の鞘に目を向けながら、独り言を呟いた。
 リセットおよび高山たちとの戦いの後、私たちは大豆やサツマイモなどを育て始めた。苦労しながらも栽培は成功し、収穫を見計らう役目に、私が任された。別に嫌な役回りじゃない。
 素人目に見ても、大豆畑はすっかり収穫できる頃合いだ。良い肥料のおかげと思いたい。
 私は黒デニムのポケットから短い鉛筆を取り出し、クリップボードのチェックリストに印をつけた。他のサツマイモなど同様、これで大豆も刈り入れられる。
 寒波がくる前にすべて収穫し、味噌や醤油、豆腐づくりに入るんだ。そして余った分は、塩茹で枝豆にして……。
 いや待てよ、連作障害を考え保管しておかなきゃ。
「できた! できあがり!」
前から突然聞こえた大声と、現れた声の主に、私は驚かされるしかなかった。
 過集中に入りこんでたせいもあるけど、心臓に悪い登場をしてくれたもの。戦闘中じゃなくても、反射的にキックしてたかもだ。
「ねえ、もう少し遠くから声かけてくれない?」
亡きご両親に代わり、その孤児である男児に言った。
「……あっ、うん」
穏やかな口調を意識したけど、彼の表情はたちまち曇り、真顔になる。そして、次の言葉をじっと待つ男児。わかりやすく、目を必死に合わせていた。
 ここに鏡があれば、恐ろしい自分の顔を拝めるね。話す際に気をつけてるけど、顔に自然と力が入ってしまう。悪い癖だ。最近は比較的穏やかな日々を送れてるし、少しはリラックスしないとね。

 男児は両手に、四つ折りの白く大きめな布を持っていた。何かを描き、私に披露したいようだ。自由時間に彼はしばしば、コミュニティの静かな場所でスケッチしている。
「えっと、何ができたの?」
口元に笑みを浮かべ、私は尋ねた。……死んだご両親と自身を描いた絵じゃないのを期待しつつ。
 今度は上手くいったらしく、彼は元気よく布を広げてみせる。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん