正常な世界にて
私と坂本は、高山の死体を見下ろす。言葉に出さないけど、達成感が全身を駆け巡っている。「やった!」とか「勝った!」といった定番のセリフを、心の中でひたすら吐く私。自分自身への肯定感を、この件で十二分養えという調子でね。
「煙臭いね」
電気火災を起こした彼が言った。
気づけば、砂糖爆弾の甘い芳香は消え、煙臭さが立ちこめている。スプリンクラーは相変わらず働いてるけど、一酸化炭素中毒に陥った末、ここで高山と腐りゆくのはゴメンだ。
そう、ここでは……。
「行こう。ボクも確かめたけど、高山は死んでる。完全にさ」
彼はそう促すと、ホームに上がるハシゴへ歩いていく。痛みはだいぶマシになったらしい。……なら、大丈夫だね。
「ねえ? 手伝ってくれない?」
私は言った。思いついたアイデアがあり、実行したくなったのだ。衝動的だけど、悪いアイデアじゃない。彼もそう理解するはず。
「んっ、何をさ?」
振り返った彼の表情は、疲労と怪訝で満ちている。けど理解させる。
「できることがまだある」
私がそう言った瞬間、スプリンクラーの雨音が止んだように。