小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

正常な世界にて

INDEX|371ページ/381ページ|

次のページ前のページ
 

【第50章】



 高山さんは勢いに任せ、突撃してはこなかった。
 彼女は私と坂本君の手前十メートルから減速し、数メートルの位置で立ち止まる。そして、バタフライナイフの刃先を突きつけ、私たちを睨んだまま動じない。
 私と坂本君も動じず、それぞれ武器を構え、彼女と対峙する。私は弾ありピストルで、彼は弾なし自動小銃。私は彼女の首元へ狙いをつけている。
 彼は長い銃をこん棒のように構え、黒い台尻を彼女へ向けていた。重たく慣れない構え方ながら、ハンドガードをしっかり握りしめる彼。
 数でも武器でもこっちが有利だけど、ちっともそう思えない。不利なはずの彼女が示す態度は、まるで同等であるかのよう。きっと、私が撃ち損なう瞬間を、今か今かと伺ってる。
 引き金にかけた指が、気づけば微かに震えていた。濡れてるからじゃなく、殺すか殺されるかの瀬戸際に、あらためて立たされているせいだ。……何度も経験してるのに。


 数分経った頃、非常ベルが突然鳴り止む。自動なのか伊藤が止めたのかはわからない。
 ただ、スプリンクラーの雨は止まず、私たちを今も濡らし続けている。ここで勝利しても、後で風邪を引きそう。
 ……おまけに、火事に巻きこまれる危険まで察せた。坂本君が砂糖爆弾を爆発させたおかげで、ホームのどこかでボヤが起きたらしい。素人考えだけど、電気火災だと思う。電光掲示板の残骸が発したような激しいショートが起こり、燃えやすい紙片か何かが燃え始めたんだ。薄く透き通る灰色の煙が、天井を濁らせ始めている。スプリンクラーですべて消火されるならいいけど、勢いよく燃え広がったり、一酸化炭素が充満したらオシマイ……。
「ああ、コゲ臭い」
衝動的に大活躍してくれた彼が、勝手に毒づく。
「スプリンクラーで大丈夫」
私は彼に言った。不安はあるけど、背中を見せて逃げるわけにいかない。勝負に早く動きたいけど、手足は拒否しているよう。
「近くでアイツを見れば、臭いのを忘れられるかも」
彼の視線は、彼女の胸へじっと向けられていた。急所の心臓を狙ってるわけじゃなく、文字通り胸へだ……。

 スプリンクラーの水を全身に浴び、高山さんの着る白のカッターシャツは半透明に化していた。ここまで言えば、男女関係なくわかるね?
 ……そう、シャツ下のブラが思い切り見えている。輪郭だけじゃなく、クリーム色とハッキリわかる。露出度の高いブラじゃないけど、彼女の大きな胸はとても目立つ。偶然とはいえ、Bカップの私への当てつけに思えた。
 お色気で男を油断させる展開は、お決まりかつ使い古されたモノ。時には女性差別と批判される類の……。彼女が故意にそうしたのかを、わざわざ尋ねる気は湧かない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん