正常な世界にて
下品な顔を浮かべ、下劣な思惑を抱いていると、高山さんが勢いよく起き上がった。思いにふけてるうちに、つい力が抜けていたのだ。やっちゃった!
床に押しつけられ、今度は私が無様な格好……。彼女の肉付きの良い太ももが、私のか弱い腰を挟みこみ離さない。
いくら良案とはいえ、神様は私の提案を却下したようだ。彼女の手にナイフを返した点も含め。
「よくもよくも!」
彼女は興奮して叫ぶなり、刃先を私の顔目がけ一直線に。まったく躊躇せずにね。
……幸いも幸いだ。ホントにギリギリのところで、刃先を右ひじで受け止められた。骨の固い箇所に当たり、ひとまず止まる刃。
「あああああっ!!」
けど、一気に沸き上がる激痛は受け止められず、バカみたいに喚く私。隣りの駅でも聞こえ、空気を震わせるほどの大声で。
別に、彼女の同情を誘ったわけじゃなく、彼女もそれは理解できている。現に彼女の手は、ナイフをしっかり握りしめたまま。
そして抜かれた刃先は、私と坂本君の鮮血で色濃く染まり……。