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正常な世界にて

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 ここで私は、二人の口論から一旦離脱する。友人知人の罵り合いに興味関心が湧かないわけじゃないけど、これ以上は自分自身のメンタルまで削られてしまう。
 あの二人の口論をBGMに、私はホームをうろつく。ワイヤレスイヤホンがあれば、スマホのユーチューブでロックを聴きたいところ。……けど、ネットは今も死んでいる。
 ああ当たり前だけど、高山さんの目的には、ネット社会も深く関係する。良くも悪くも、大きくも小さくも、明るくも暗くも、インターネットという存在は……。
 頭が疲れてきた。強迫的に自分自身へ答えを求められ、気持ちがしんどい。ホントに疲れやすい不遇だ。
「関係ないだろ!! 今関係する話じゃない!!」
ホームに響き渡る坂本君の怒声と、軽い何かが蹴り飛ばされる音。
 スルーできず、私は二人のほうをサッと見る。この強烈な好奇心も、疲れやすさの原因だ。大人になれば、少しは改善するかな?

 坂本君は高山さんの足元に転がってた、空のプラスチック瓶を蹴った。それは壁に当たり、排水溝に落ちる。そして、小さな空き瓶は排水溝をコロコロとゆっくり流れてくる。

 高山さんをこのまま死なせずに、助け生かすべきかな? 情けで助けるんじゃなく、人質として活躍してもらうために。
 けれども、泥沼や長期化を考えると現実的じゃない。また、人質で大活躍という展開が起きたとしても、事あるごとに非難されそう。「あの対応はマズかった!」とか「なぜ殺さなかった?」という具合にね。
 ……ただ、ふと思った。坂本君が彼女のすねじゃなく、空き瓶を蹴り飛ばしたのは、彼なりの配慮なんじゃないかという事。気まぐれや偶然かもだけど、友達だった彼女を身体的にこれ以上苦しめたくない優しさが、彼の中に湧いてるわけだ。亡きクラスメートの無念を彼女が果たした点はさておき、彼は彼で人を選んでいる。
 大げさかつ誤解を恐れずにいうと、坂本君も「普通の人間」なんだと認識できた。
 高山さんもきっと……。

 そんな事をフワフワ思い浮かべながら、私は排水溝から空き瓶を拾い上げた。致命傷を受けた高山さんが摂取したらしく、フタは外れている。排水溝の水が内部に溜まり、水位が揺れて見える。
 汚れはあるけどヒビ割れは無く、坂本君が加減して蹴ったと伺えた。濡れたラベルがくっきり読めるほど。
 ラベルには大きく「大須製薬 緊急即応薬剤」と商品名が書かれ、下には「止血・鎮痛・滋養強壮」という効能が……。
 ここで悪寒が迸る。けどまあ、いくら薬でも飲んですぐ効果が出ると思えない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん