正常な世界にて
「なにするのっ!」
自身の激痛を忘れたかの如く、高山さんは途端に怒った。脊髄反射的に一歩退く私たち。スカートの左ポケットからピストルを抜き、いつでも撃てることを確認した。
これ以上撃たずに済むことを願う。伊藤の手柄で全然構わないから……。
高山さんの顔から、ピンク色の小さな腫れはまもなく引いたけど、険しい表情は収まらない。死にかけて立ち上がれないのが幸いだ。
「……怒りたいのはこっち側だよ。ボクらを襲ったり、警察署を爆破させたりで好き勝手にさ」
坂本君は口調を抑えつつ、彼女にそう言った。
「爆発は聞いたし知ってるけど、あれは私たちじゃない」
顔に険しさを残しながら、彼女は静かに言い返す。
「じゃあ誰がやったの? 自分勝手に暴れたいだけの人たちが、あんな大爆発まで起こすなんて……」
私はそう尋ねすにいられなかった。そして同時に、坂本君が砂糖爆弾を「今も」安全に持ってくれている事を喜んだ。
「さあ知らないわ、本当に知らないの。……あの夜にそんな余裕なんてなかった」
険しい顔から苦々しいそれに戻る高山さん。
「ハアッ、余裕なかった? リセット祝いでもやってたんじゃない? 黒くなった東京タワーのライブ映像でも観ながらさ」
「東京を爆発させたのも私たちじゃない! 核まで使うなんて知らなかった!」
坂本君の挑発に言い返す高山さん。顔がまた険しくなった。
「……だろうね。伊藤から聞いたけど、お前らは落ち目だから知らされなかったわけだ」
さらなる挑発。しかし、高山さんの顔はさらに険しくならず、切なさ侘しさが浮かんできた。
「ああそうよ、それぐらい認めるわ。あの日、私たちができることはかなり限られた。政府専用機が飛んでこなかった件で、さらに実感できた」
天井を再び仰ぐ高山さん。空は見えないけど、今頃オレンジ色に染まり始めてるだろう。
「事態が落ち着くまで籠ることは考えたけど、できることはまだあった」
「ボクらを殺すことだろ?」
「違う、その時は違う。……むしろ逆と言える」
「……どういう意味?」
そう尋ねながらも、坂本君は戸惑いを隠せない。私も心中同じだ。
「学校、私たちの高校に輩が集まってると聞き、急いで助けに向かった」
昨夜暴徒に襲われ燃やされた、高校へ彼女がわざわざ?