正常な世界にて
「殺して回ったの間違いじゃないか?」
「後から来た輩が、避難所の食糧を持ち去ろうとしたみたい。一軒一軒回るより効率的と考えたんでしょうね。当然揉めたんだけど、最中に火事が起きた。……私が避難所の体育館に着いたときには、煙が回りパニックが起きてたわ。けどそんな中でも輩は盗んだり暴れたり、好き勝手にね……」
そこで彼女は、私と坂本君の顔を一瞥する。
大小問わずいろいろな物を集め、文化的な生活を維持しようと私たちを、彼女は快く思わなかったらしい。第二十一特別支援隊との銃撃戦も、銃や弾薬目当てだと確信してるご様子。……結果的には正しいけど。
「消火器を使ったけど力不足。諦めて外に誘導し始めたとき、輩が私に絡んできた。……タイプや雰囲気が違ったし、消火器で答えてやった」
うん、模範解答だね。
「鼻血や涙をこぼしながら、そいつは仲間を呼んだ。恥をさらにかくよりも、私を犯すのを優先したみたい」
彼女の外見はキレイだからね。合理的配慮というか、中身を知る前なら構わないんだろう。
「人数差で不利だから逃げた。ちょうど今みたいに」
「……今回はダメだよ! 逃がさない、絶対逃がさないからね!」
彼女の嫌味に、私は強く言い返した。高山さんにそこまで強気で言ったのは、彼女と初めて行動した日以来かも。そう、私の初診日だ……。
戸惑いを隠したいのか、彼女は話を続ける。最後まで話し切りたいご様子だ。
「外で見張らせてた三十五番の子から、私たちの教室に明かりと人影が見えると聞いた。だからそこへ逃げこみ撒こうとしたわ。……もしあなたたちがいたら、勇ましく戦ってもらってた」
「ふーん。もしそうなら、素っ裸で置いてくよ。そのほうがみんな楽だろ?」
「……少々近い状況にはなってた」
彼女がそう呟くと、坂本君は銃を構え直し、最後まで耳を傾ける気を起こす。ああ、わかりやすい態度だね。
「若水さん、知ってるよね? あの子が教室で、その、輩二人にレイプされてた」
「……えっと、アウトドアの黒リュック? クラスで三番目に可愛いくて、黒ポニテの子だよね?」
私は彼女の顔を思い出せた。まあ、私より可愛い点は認めよう。
挨拶以外で週に一度話すか話さない程度で親しくないけど、クラスメートがレイプされたなんてムカつく。現場が私たちの教室という点も、汚らしさに拍車をかける。
彼女に取って幸いな点は、リセットにより高校生活はすでに終わり、私たちと顔を合わせずに済むぐらい。……不謹慎だから言わないでおこう。
「うん彼女は、彼女は死んでたみたい。しかも、彼氏らしき死体が隣りに……」
前言撤回だ。考えてしまった自分を恥じる。