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正常な世界にて

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【第45章】



「いつもの癖?」
坂本君に言われ、我に返る私。右手を見ると、マナカ(名古屋のカード式乗車券)が握られていた。
 考えこみ、過集中入りした私は、無意識に財布からマナカを取り出し、改札を通過していた。定期券内かつ福祉乗車券付きのため、改札機のバーは何事もなく開かれたのだ。坂本君は散弾銃を手にしたまま、ハードルのようにバーを飛び越えたらしい。
 つい数日前までの日常を思い出しながら、私はマナカを財布にしまう。そして、財布をスカートの左ポケットにしまう際、署長のノートに一度引っかかった。ふと見ると、スカートのポケットは左右ともパンパンに膨らんでいる。左ポケットはピストルで、右ポケットには防犯ブザーが入ったまま。
 見っともない着こなしだけど、今考えるべき事からすれば、本当にささいな問題だ。

 今一番に考える事柄は、今後起こりうる不安要素についてだ。
 高山さんは単独行動だったけど、あのスナイパー少女はまだ生きているはず。ケガが治り次第、私たちへの攻撃を再開するだろう。ボスの高山さんを殺せば解決するとは限らない。別の人間がボスになり、再び襲撃されることが考えられる。備えはまだまだ重要だ。
 ただ、それを防ぐために、強力なメッセージを示すことも重要といえる。襲撃だけじゃなく、舐めた気すらも起こさせないように。
 なにしろ、敵は高山さんたちだけじゃない。私の高校みたく、暴徒に火を放たれる事態もありえる。
 悪くいえば、周りに怖がられようというわけ。……寂しい話だけど、割り切らなきゃいけない。
「ピストル落としてったよ。……けど、弾切れみたい」
高山さんのピストルを私に見せる坂本君。彼はもう一度弾切れを確認すると、ズボンの尻部分へ雑に差しこむ。
「手当てをミスったのか、アイツ?」
彼の視線の先に、滴った血痕が見える。一メートルに数滴の間隔で、地下鉄駅のプラットホームへ伸びていた。天井には「東山線 名古屋・栄方面」の吊り看板が、薄ら白く灯る。
 ケガして逃げたとはいえ、高山さんが他の銃や罠を用意していないと限らない。血が示す道のりなんて、使い古された危険の象徴だからね。幸い、私も坂本君もバカじゃない。
 頼みの撃てる銃は、私のピストルと坂本君の散弾銃だけ。しかも散弾銃の弾に予備はなく、こめられた一発のみ。彼は今にも、引き金を引きそうだ。狙いを定めることなく……。
「壁際を通りなよ」
銃の交換を頼もうかと思ったとき、彼は壁沿いに進む最中だった。散弾銃の長い銃身の先端が、タイル床をコツコツ鳴らす。おまけに、背負う弾切れ自動小銃が、レンガ壁まで鳴らしていく。
 例のピンポン音のセンサーを避けるためだけど、これでは無意味だ。高山さんの聴力が、亡きガンガールほどじゃないのを願う。
「ああクソッ。背中のは置いてくるべきだった」
独り言まで垂れる始末……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん