正常な世界にて
【第43章】
ショットガンはガラス片から拾い上げられる寸前に、坂本君に蹴り飛ばされた。かかっていた指を払いのけられ、ガンガールの両腕は空を切るばかり。
蹴られた銃はキャビネットに当たり、バンッと音を立てる。金属板に弾き返され、床に落ちた。暴発しなかったのは幸いだ。蹴った拍子に飛散したガラス片のことも含めてね。
……だけど、ここで一安心は早過ぎかつ甘かった。叫ぶのを止め、メガホンを下ろす私。
ガンガールが自分の銃めがけ、一心不乱にほふく前進している。ガラス片やらが散乱する床をだ。案の定、手指に切り傷が早速できていた。ジュクジュクと湧き出る赤い滴が、灯りに照らされよく目立つ。
痛みに耐え諦めない必死の姿勢を、世間一般的には感動すべきだろうけど、私は憐れんでいた。涙を流すとすれば、感動や応援の気持ちからじゃなく、彼女を不憫に思うそれからだ。
これは正直、彼女ガンガールやスナイパー少女が、私と同年代かつ置き換えやすい立場だからだ。彼女たちにも戦う理由というか目的があるはず。暴徒の略奪とは絶対違うんだ。
ただ、坂本君と伊藤の心には、感動も憐れみも生まれていない。犠牲と復讐心を考えれば、仕方ないことだった。
坂本君はまず、這いずる彼女の尻を本気で蹴った。アゴを強く打ち、激痛に唸り声をあげるガンガール。坂本君はためらわず、伊藤と共に暴行を加え始める。彼女がそれ以上大声をあげないため、意外と静かに事が進んでいく。
伊藤は、軽傷の右半身を使い、竹箒で彼女の両足をバシバシ叩く。太ももは赤く腫れていった。絶対領域は崩れ、ミニスカートやニーソックスはシワくちゃだ。
坂本君のほうは、彼女へ馬乗りになり、頭を中心に両手で殴りつけている。殴られる度に、彼女の髪は無惨に乱れていく。目立つ二本の縦ロール髪は、使い古され伸び切ったバネのように伸び、床の上でピチピチ跳ねている。
彼女は抵抗していたが、両腕が髪と同程度に動くぐらいで、無力といってもいい。第三者が見れば、典型的なレイプの現場で、私はどんな役だろうか……。
坂本君が繰り出す両方の拳は、彼女の血で赤く染まり、まるでグローブをはめているように目立つ。殴る側も肉体的に痛い話は本当らしく、彼の口元に苦々しさが垣間見える。
それでも、逃がしたスナイパー少女の分も補わせるべく、彼女ガンガールへの復讐劇は続けられた。……そばで竹箒を振るう伊藤の姿は、シュールで滑稽に見えた。