正常な世界にて
うるさく鳴り始める防犯ブザー。ドア前まで来たガンガールの右耳に達したときだ。
「ピィピィピィピィピィピィ!」
敏感な耳に叩きつけられる大音量に、ガンガールの険しい表情から苦しげなものに一変する。立ち止まり、右耳を痛そうに押さえつけた。片手で持つショットガンはフラフラと震えている。
……だがそれは、数秒ほどのスキに過ぎなかった。強く投げたせいで、防犯ブザーはピロティの床を滑り、歩道のほうを消えてしまう。音そのものは聞こえるけど、ガンガールを苦しめるほどじゃなくなった……。
仕返しとばかりに、彼女は再び発砲してみせる。枠から外れんばかりに開く駅事務室のドア。開いた勢いで残りのガラスも落ち、出入口の床は輝きで一杯だ。踏むと目立つ音を立ててしまうから、余計逃げづらい。ガンガールは慎重な足取りで、駅事務室へさらに近づく。完全に居場所を把握された。
坂本君は伊藤に目配せし、壁に掛けられた竹箒を伊藤に促す。車に銃を置いてきてしまった彼向けの武器だ。坂本君はピストルが握りしめている。彼の腕前を考えれば、背負う弾切れ小銃で殴りかかるほうが、勝機あるんじゃないかな。
ガンガールは銃を構えながら、点字ブロックの警告部分から一歩踏み出した位置に立ち止まる。警戒しているのか、しびれを切らした私たちが音を立てるのを待っているのか。ガラスドアの手前に、じっと立つ彼女。
……坂本君が早くも我慢できなくなり、ピストルを構えながら、ガラスドアの前に立とうとする。慎重に足を置けば、ガラス片は音を一切立てないと、軽く考えているみたい。伊藤のほうは、竹箒を壁のフックから慎重に外す最中だ。
二人が失敗したときは、私が彼女に銃弾を撃ちこむ。刺し違える覚悟だ。潜む高山さんが、あのスナイパー少女やガンガール以外に手駒を残していないと祈る。
今ココで警告をコミュニティまで届けられれば、たとえ私たちが死んでも、何らかの対応を取れるはず。コミュニティと高山さんの組織とが共倒れになる展開でも、後を考えれば最悪構わない。
リセット前の高校生活ですら、高山さんには一定のカリスマがあったじゃないか。この戦いを「成功体験」に、権威や勢力やらを倍増させるバッドエンドも考えられる。
室内に残る固定電話やパソコンに目が移りながらも、肝心の通信環境が死んでるじゃないかと思い出す。
即撃ち殺されるけど、ここで大声を張りあげれば、どこまで聞こえるかな? 私の目は駅長机に放置されたメガホンに目が移り、そばの機器にも。