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正常な世界にて

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 ライフルが立てた「カシャン」という音は、一人前の銃声みたいに大きく聞こえた。おそらく、ガンガールと同じぐらいの音量でね。こちらの正体にも気づけたと思う。
 私はつい慌てて、右足で銃をたぐり寄せようとした。しかし、伸ばした足の先がそれに届く直前で、ガンガールが再び発砲する。
 散弾の直撃を喰らい、路面から弾き飛ぶライフル。金属同士が激突する高い音、散乱する木片。亡き持ち主の思いもこもるライフルは、無数の金属弾によりスクラップと化した。
 同等のライフルがまた入手できない限り、私の努力や才能はムダだろうね……。
「伏せろっ」
顔を強張らせた坂本君が、私の頭頂部を乱暴に叩く。コブができるほど強くないけど、イラッと感じた。彼は私が頭を下げると間もなく、自動小銃の引き金を引いた。ただし、耳を抑える余裕はなく、頭上を通過する銃弾を、苦痛に感じざるえなかった。応戦してくれること自体は感謝しなきゃだけど。

 ところが、坂本君自慢の腕前は発揮されなかった。自動小銃にはまだ十数発残っていたようだけど、すべて狙いを外してしまう……。ガンガールのほうが姿勢を素早く整えた点はあるけど、やっぱりこれが彼の腕前だ。そこで死んでる男がこれを知れば、疑いの目を彼に向けるはず。
 ガンガールは自動小銃が弾切れを起こす音を聞き逃さず、反撃に動く。再び鳴り響く、乾いた銃声。それも二回続けて。
 また奇跡が起きたらしく、私と坂本君に散弾は一つも当たらずに済んだ。察した坂本君が勢いよく伏せたからね。危うく頭同士をぶつけかけたが、頭上を駆け抜ける散弾の鉄球よりかはマシだ。
 それに、両目が見えないというのはやはり大きなハンデらしい。彼女がまだ健常者なら、私と坂本君は今頃、健常者でも障害者でもない域に達している……。グレーゾーンという意味じゃない。
 とはいえ、彼女の収穫はゼロじゃなかった。神様は彼女にも奇跡を与えたのだ。
「痛い痛い痛い!」
車の近くで伊藤がしゃがみこんでいる。左膝下と左手首辺りに新しい傷跡が見えた。散弾二発分からなる無数の鉄球が、いくつか当たっていた。息を潜め、ここでじっと伏せていれば、ガンガールが喚く伊藤を始末して立ち去るという流れを期待できる。正直低確率だけど、彼女だって人並みに腹は減るし、トイレに行きたくなるんだから、そんな持久戦だってアリだろう。
 だけど仲間を見殺しにはできない。むしろ、そんな流れを期待した自分がバカだね……。素直な坂本君ですら、今のところ提案してこない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん