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正常な世界にて

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【第40章】



 ……前方で男が頭部をすっかり失う。本人はそれすら自覚しないうちに死んだ。
 テレビ番組で以前観た、大口径の銃弾を喰らうスイカの実験映像を、次の瞬間には連想していた。つい十秒前まで言葉を発していた彼は、口どころか命を閉ざしている。合わせる顔がない……。
 リセット翌日に見かけたどの死に様よりも、確実に派手で凄惨なそれだけど、現実感がなかなか湧いてこない。正常性バイアスと慣れがタッグを組んだ感じで、取るべき行動に移れない私。
 ああ、……ロングスカートやらが血で汚れちゃった。蛇口と洗剤はどこかな? まだこれは大事な服だから、シミを残すわけにいかない。

「森村っ! 何やってんだよっ!」
坂本君に声かけされ、襟後ろを強く引っ張られた拍子に、必要最低限の現実感がやっと湧く。鉄臭さを鼻や舌先で感じながら、私は前方を見据える。
 男の死体の背中に、あの盲目少女が立っている。シュールさが売りの芸術作品みたいだけど、感心したり批判している余裕はない。無意識に足が後ろへ進んでいく。
 彼女が持つ長物は、白杖じゃなくてショットガンだった……。銃口から台尻まで白くべっとり塗られたそれを、小柄で可愛らしい少女が平然と構えている。銃声が意外に抑え気味だったのは、取り付けられたサプレッサーのおかげで、彼女は耳を傷めずに済む。
 腰のウエストバッグからヘルプマークを吊り下げてるし、彼女が視覚障害者である点は間違いない。そうじゃなきゃ、私まで頭部を失ってるはず。
 ……坂本君の声が耳に届いたらしく、彼女は再び発砲した。すぐ足元で歩道のタイルが砕け散る。跳弾が当たらなかったのは奇跡だね。日本は神の国であると思えた同時に、盲目少女の正体に私は気づけた。
 例の雑居ビルで私たちを襲った少女こと「ガンガール」じゃないか! とぐろのような縦ロール付きの長い茶髪に、黒のニーソックスが映える絶対領域。……オレンジ色のミニスカートまで履いてて、あざとい格好だね。
 爆発に逢い、視力を失いながらも、彼女は渋とく生き残ったというわけだ。小池刑事なら間違いなく、ここで彼女に報復するはず。
 どうやら、私たちが代わりにやらなきゃいけない。……こんな状況じゃなきゃ、構わずに先制攻撃を喰らわせている。高山さんが身体障害者を雇用している点は、世間的に評価すべきだろうけど……。

 私はとっさに、ライフルを背中から取ろうとした。……だけど、坂本君に半分引きずられる体勢でもあり、手から路面に落ちてしまう。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん