正常な世界にて
「他の勢力にも気をつけて。もう敵と捉えられてるかもしれないから」
「うん、了解。あそこの警察署を爆破したのは」
「私は行かないよ! 絶対行きたくない!」
二人の話に割りこむ私。そう言わずにはいられなかった。
途端に二人は、階段で歩みを止めた。しかしそれは一瞬で、階段をまたおりていく。仕方なく、私も後に続く。
「高山と決着をつけなきゃいけないだろ? いつかはボクよりも森村のほうが、やる気満々だったじゃん!」
昔話を長期記憶から拾ってきた坂本君。確かにそんな時期もあった。 だけど今の私は、正直消極的な姿勢でいる。逆に今の彼は、積極的で冒険心に溢れていた。理由は自信過剰だと、あらためて把握できる。「理解」じゃなくね。
高山さんはバカじゃない。少なくとも、私と同等以上の知能を持っている。そして、私や坂本君のような発達障害者とは違い、言語性指数と動作性指数はバランスがいい。おまけに、金持ちだし美少女だ。
彼女の欠点といえば、精神病質で精神障害者手帳一級を持っているぐらい。つまり、世間では「メンヘラ女」と呼ばれる類の、れっきとした障害者だ。
……ただ、現代の日本社会において、女性の障害者というのは、男性のそれよりも同情を得やすいと、子供ながら正直思ってる。亡き坂本ママだって、そういう思いの元、私に忠告してきたわけだ。
とにかくそんな現実から考えれば、ただでさえ綺麗な彼女からすれば、一級でも小さな欠点でしかない。包丁二本差しで闊歩していようと、慈悲深い男性が寄っていくはず。……いや、間違いなくそうなる。たいした男女病棟、いや、男女平等だね。
話を戻す。結論から言うと、勝率は五割ほどだと考えている。私と坂本君がこのまま、高山さん家へ自信満々に赴くとだ。
仮に彼女が在宅としても、リビングでポップコーンを摘まみ、映画をのんびり観ているとは思えない。手下から連絡がこないことから、失敗したと察せられる。あの彼女は逃げることなく、家の防御を万全に整えるだろう。
そして、防御を整え終わり、トイレや腹ごなしを済ませた頃に、私たちがノコノコやってくるわけだ。慢心した坂本君はきっと、玄関から堂々と入ろうとする。
しかし上手くいかず、先頭の彼は即死……。おおかた、室内に一歩足を踏み入れた途端、頭上のショットガンが火を噴くといった流れだろう。それから、私も逃げ切れずに死ぬわけだ。
たとえ運よく逃げられたとしても、私はコミュニティで孤立してしまう……。他に身寄りがないからね。