正常な世界にて
【第38章】
名誉の戦死を遂げた二人を、仲間がエレベーターに乗せる。粘度の高い血液が、シーツからボタボタ垂れていく。赤黒い点線が廊下に伸びる。
遺体二人分を寝転がせたため、私含め四人はエレベーターに乗り損なう。私と坂本君と伊藤、ゲート係の生きてる方の男だ。
「階段でおりるよ。酷いケガ人を先に連れていって」
伊藤は仲間にそう言うと、階段へ向かう。ドアが閉まり、降下していくエレベーター。
私たちも階段へ向かう。一階とこの最上階を自力で往復する形だけど、文句言える立場じゃない。私と坂本君も戦ったとはいえ、反撃されない遠距離からの一方的な戦いで、ケガは彼から受けた火傷だけ。
「オレたちの戦果は、狙い撃ってきた女子だよ。この銃で見事命中さ」
「距離がけっこうあるのに、すごい偶然だね。まさに数撃てば当たる」
「いやいや、偶然じゃないよ。オレが撃てば必然になるよ」
伊藤相手に豪語する坂本君。もちろん、空薬莢で私に火傷させた件は話さない。まあ多分、私から話したところで、彼は上手くきれい事にするだろうね。
「森村さんは何か戦果ある?」
ゲート係の男が、単刀直入に尋ねてきた。
「うーん、今のところは……その……ゼロですね」
「ああそう」
失礼なレベルでテンションを下げてきた。
あの少女の体内に私の銃弾が残っていれば、坂本君にギャフンと言わせられる。貫通していないことに期待だ。
「高山御殿には行くつもりだよね?」
「もちろん、すぐ行くよ! 今直行すれば、遠回りしたとしても、暗くなる前にアイツん家に着ける。急がなきゃ逃げられるから、このまま車で行ってくるよ」
「なるほど。……森村さんは連れてくんだろうね?」
「ああ、連れていくよ。オレは彼女をちゃんと守る男だからさ」
勝手に話を進める坂本君と伊藤。背後に私本人がいるにも関わらず……。
「銃弾を頭に撃ちこんでやる! 一発だけじゃなく五発ぐらい、いろんな角度から頭にさ!」
洋画の悪役が使うような、安っぽいセリフを話す坂本君。自信満々に自動小銃を見せつける動きも、なかなか愉快なもの。
「確実に殺せるのかい? 彼女は彼女で、ピストルぐらい扱えるだろうから」
「大丈夫だって! 頭に銃弾を何発か撃てば。健常者だろうが障害者だろうが死ぬもんさ」
スナイパー少女を仕留めた経験(私の手柄だと思うけど)から、慢心の域に達していた。戦いにまだ素人の私ですら、これは危ない兆候だとわかる。それから、過剰な自信を持った人間が、面倒臭い結果を起こしがちという点も……。