正常な世界にて
「そうだ!」
安っぽい声を上げる私。安直だけど、安全に位置を探る良案を思いついた。
「自撮り棒は今持ってない?」
私の質問に、坂本君は首をかしげる。「こんなときにいったい何を言い出すんだ?」と言うセリフが、今にも飛び出しそうだ。
「あっ、なるほどね。……ただ、カメラの部分だけ出せるなら、あの棒が無くてもいけそうだよ?」
頭と察しが早い伊藤は、私の良案にすぐ気づいてくれた。さすが、インテリ系な風貌だけある。
スマホ搭載のカメラでビデオ撮影し、銃口が火を噴く瞬間を狙うのだ。撮影からの録画チェックで、少し時間がかかる方法だけど、このまま狙撃され続けるよりかは、はるかにマシだ。
「……そういうことか。危ないからボクがやるよ」
坂本君はそう言うと、私の案に乗っかる形で、スマホを尻ポケットから取り出す。それから、怯えることもなく堂々と、スマホの上半分を軒下から外へ。
「カメラ起動してなかった」
一旦スマホを操作する坂本君。ヒビが走る画面に、坂本君の顔が映し出される。
……少々不安だ。指ごと撃ち抜かれなきゃいいけど。
精度のためにも、私もスマホで探ろうかな。ガムテープがあれば、このライフルの先端部分に取り付けられる。
幸運なことに、その必要はなかった。坂本君が笑顔を浮かべながら、スマホを持つ腕を戻す。
「今のでいけたはず!」
響く銃声がまだ鳴り止まないうちから、坂本君は録画チェックを始める。彼は数センチほどの目線で、両目は完全に開かれている。目玉が飛び出すような凝視だ。過集中の一種と言えるやつかな?
「駅のクソ高いビルから撃たれてる! アイツ、マンションの最上階から撃ってやがる!」
興奮で声や指を震わせながら、彼はそう言った。勘違いなどではなく、確実な答えらしい。
発案者は私だけど、ここは彼の手柄ということにしてあげよう。とはいえ、盛大な拍手を送れる状況じゃない。あのスナイパーを沈黙させるのが先だ。
「おーい誰か!! あの機関銃で、駅前の満床の上ら辺を撃ちまくってくれ!!」
伊藤が大声で、敷地内に隠れている人々に頼んだ。私たちはいる場所から、あの水素式重機関銃が設置されている場所までは、少し距離があるためだ。近くにいた誰かが扱えるなら、頼むに越したことはない。
「わかりました!」
重機関銃のある方向から、返事が返ってきた。声の主は昨日、ゲートで見張りをやっていた男の一人だ。彼なら重機関銃の扱い方を、ある程度知っているはず。
名前を知らない彼の活躍に期待しよう。