正常な世界にて
坂本君に何度か口を挟まれたけど、私は突っ切る形で、一通り話し終える。その頃には、彼のうんざり具合は強さを増し、伊藤を睨んでいた。
「心配しなくても大丈夫なんじゃ? 高山んところの組織、弱くなってるんだろ?」
「……だからって、油断はしちゃ駄目だよ? 『窮鼠猫を噛む』って言葉は知ってるだろ?」
ついさっきと同じやり取りを、坂本君と伊藤は再演してみせた。
坂本君は深々とため息をついた後、
「見張りの数を、昨日に戻す?」
伊藤に提案した。よかった。彼に殴りかかる展開は起きないようだ。内輪揉めなんて最悪だからね。
「それもだけど、先手必勝でこっちから出向くっていう手もあるよ」
まるで戦だね……。たぶん正当防衛とはいえ、内心怖くなる。相手はクラスメートであり、まだほぼ友人の存在だ……。
「なんか甘い香りしない?」
いきなり違う方向の話を始めた坂本君。ああ、これは。
「コレだよ。例の砂糖爆弾の匂いさ」
伊藤はそう言うと、カーゴズボンのポケットから、砂糖爆弾の小包を取り出した。
「そうだ! こいつでアイツの家をブッ飛ばそう!」
言い終わるよりも前に、坂本君は伊藤から爆弾を奪い取り、軒下から外へ歩き出す。地面を踏みしめる足音が、とても力強く聞こえてくる。これは本気の本気で、高山さん家を爆破するつもりだ。
完全に彼は、高山さんを宿敵と見定めている。最近は距離感があったものの、遊んだりしたクラスメートなのに……。
殺されたくない気持ちは強いけど、殺したくない気持ちもいまだ強い。その両方の気持ちを叶えるためには、彼からすれば「弱腰」なやり方だけしか思いつかない。
「ちょ、ちょっと待って!」
最善のやり方を思いつくよりも前に、私は彼を呼び止めていた。
「なに!?」
振り向いた彼の表情を見て、全身が強ばる。顔から乱暴さがにじみ出ていたからね……。私に対してすら、ジャマ臭いご様子。
「その、他の解決策が、何かあるはずだから。ちょっと考えよ?」
「いや、そんなのないよ。ないない!」
そう言い捨て、再び歩き出す坂本君。足音がさらに力強くなったように聞こえた。
「ぼ、帽子を! いったん家に戻って、帽子被ってから行こう。せ、せめて日焼け対策をさ」
衝動的な思いつきで、彼の歩みを止めようとする私。
「……いらないって!」
再び振り向いた彼の表情は、怒りだけでなく呆れまでにじみ出ていた。一方の私は、強張りだけでなくイラつきまで感じる……。