正常な世界にて
だけど、これは鎌をかけているだけかもしれない。具体的な事をまだ話していないし、私はあの現場に居合わせたわけじゃない。
そもそも、あの女三人組は、既に組織の人間じゃなくて、どこかの変態が死体を回収したという、意外な真相だってありえるじゃないか。そうだ、そうに違いない!
「ごめん。何の話? 高山さんたちの邪魔はもうしないって言ったじゃん?」
強気にそう言い返してやる。変に誤魔化すのはマズイ。それに強気に話したおかげで、口調の狼狽え様を隠せた。
「第二十一特別支援隊への妨害と、部下二人を殺した話だよ? 本当に心当たりは無い?」
高山さんは、具体的にそう尋ねてきた。静かで淡々とした口調のままだけど、それを聞いた私は恐怖感をさらに抱くことになる……。
自分の胸に聞くまでもなく、私は関係者の一人だ。特に、特別支援隊を撃ったことなんてね。
返事できずに硬直していた時、高山さん側からチャイムの音が小さく聞こえてきた。彼女はどうやら在宅中らしい。あの干からびたご両親は、もう片付け終わったのかな? ……このままだと私たちが、ああいう酷い死に様を晒しそうだ。
「え!? 何それ!?」
強気な口調でシラを切るしかない。鎌をかけられているんだと、自分に言い聞かせてね。
「誤魔化さないで。証拠や証人はしっかり揃ってるから」
高山さんは口調を変えずにそう言った。刑事ドラマで、クール系の刑事が取り調べしてるかのようだ。
どうやら私たちは、高山さんの組織を敵に回してしまったらしい。いやいや、らしいじゃなくて確実にだ……。
「高山さん関係なんて、私も坂本君も知らなかったよ!?」
私は弁解の言葉を飛ばす。言い訳かもだけど、これは紛れもない事実だ。
あの第二十一特別支援隊や、昨夜の三人組が高山さん配下なんて、本当に知らなかった。これがいわゆる不可抗力というやつだ。
「悪いけど、そうだとしてもこのまま引き下がるわけにはいかないの。私にも立場があるからね?」
私の話をある程度は信じてくれたらしい。だけど、「手遅れだから諦めろ」という意味合いの返事でしかなかった。
高山さんに同情するつもりじゃないけど、彼女は彼女でいろいろ大変なはずだ。伊藤から聞いた話だと、彼女の組織は今や、人手不足で弱体化している。特別支援隊や三人組はきっと、残り少ない貴重な戦力だったんだね。ほんの少しだけ可哀想にすら感じる。