正常な世界にて
ライフルは坂本宅だが、ピストルは今もポケットに入れている。ノートとは反対側のポケットの中だ。マズイ傾向だとは思うけど、銃を持っていると、身の安全を守れる気がするのだ。
私はイスから立ち上がり、ポケットからピストルから素早く抜いてみせた。西部劇の保安官みたいなカッコイイ気分を、私は自分で勝手に感じていた。恥ずかしい話だけど、坂本君ならきっと理解してくれるはず。
……ところが私は、そんなカッコイイ気分をブチ壊してしまう。勢いよく立ち上がった拍子に、足元に置いた缶ビールを倒してしまったのだ……。飲み口からこぼれ、地面に流れていくビール。
苦くてもう飲まないつもりだったけど、もったいなさを感じざるをえない。それに、西部劇の保安官気分だった自分が、恥ずかしくて情けなくもなる……。
まあ、急いで置き直す間、誰にも目撃されずに済んだのは、不幸中の幸いだ。それに、ビールの水分が地面を潤したと思えばいいじゃないか。この足元で何か栽培するとは限らないけど。
坂本君なら、もっとポジティブに考えるかもしれない。彼のほうを見ると、既に彼はゲートのほうへ駆け出しているところだった。
いけないいけない! 私も急がなくちゃ!
大急ぎで駆け出した私の足が、缶ビールをまた倒してしまったけど、今度はスルーしてみせた。地面をさらに潤せるし、今の置き直す仕草はカッコ悪かったじゃないか!