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正常な世界にて

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「何か悔やんでる?」
どうやら、また感情が表情に現れていたらしい。私にはきっと、ポーカーフェイスなんて無理だろうね。
「ちゃんと行動してれば、高山さんたちを倒せたかもって……」
「いやいや、昨日のリセットは、高山やその組織を倒せたとしても、止められなかったよ。他にもいろいろな組織が関わっているみたいだからさ」
やっぱりそうだろうね。いくら才色兼備な高山さんでも、そこまでの力は無いはずだもん。
 だけどそれでも、後悔の気持ちは高ぶってくる。リセット自体は避けられなかったとしても、いくらかの不幸は防げたかもしれない。まず第一に思い浮かんだのは、両親の死だった……。うまく行動していれば、歪な復讐劇や不幸な出来事に遭ったり起きたりしなかった事は考えられる。


 私が罪悪感や思案の中に沈んでいるうちに、伊藤はどこかへ立ち去っていた。気まずい思いをさせてしまったに違いない。坂本君よりは善人そうな人に悪いことしちゃったね。
 今は気持ちを切り替えたほうが良さそうだ。私はスカートのポケットを探り、あの署長のノートを取り出した。読書兼情報収集というわけだ。宴会終了までの時間潰しにもなる。

『収容所から多数飛ぶ』
『豊和重工のトラックが襲撃被害。窃盗被害はなし』
『市内に新しいアカ。要警戒』
『マルサ3、エムゴウ入り』
『二十一隊、道交法違反が多発。陸自に改善要求』

 警察署で読んだ際とは別のページに、そう書き連ねられていた。時系列的に、リセットの昨日よりも1カ月前からの話ということになる。走り書きじゃないけど、深刻な事態が起きている様子を感じ取れた。直感だが、どれも無関係じゃなさそうだ……。
 このノートは貴重な情報源には違いない。今日入手した物の中では、ライフルの次に良い物だね。書き込まれている部分はノートの半分ほどだけど、私の好奇心をしばらく満たしてくれるはず! そう考えると、死体漁りもあまり悪くないとすら思えてきちゃう……。

「おーい!」

 次のページを開こうとした時、そんな声が聞こえてきた。一瞬、自分が誰かに呼び掛けられたのかと思ったけど、そうじゃないらしい。坂本君も含め、宴会中の人々がみんな、外のゲートのほうへ顔を向けている。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん