正常な世界にて
「よし、行こう行こう!!」
手伝い役の気分が落ち着いた頃、坂本君と伊藤は、コミュニティから何人か引き連れて、またあの公園へ向かっていく。もはや言うまでない話だけど、拾い損ねた物を集めに行くのだ。日没近くで、もうすぐ夜がやって来るにも関わらず……。
坂本君曰く、あまりにグロいし汚いので、兵士たちの死体漁りはまた明日との話だそうだ。それを聞き、死んだ兵士たちが可哀想に思えた。だけど、私自身も十分に当事者だ。同情したり、彼に文句を言える立場じゃない。
私は黙って、意気揚々と出かける彼らを見送った。
大丈夫だろうけど、私一人でコミュニティへ帰れば、坂本ママに何か言われてしまうかもしれない。それに、帰りづらさも感じていた。人を殺した実感は無いけど、あの親子に今は会いたくない気持ちがあるのだ。あの男の子に、返り血をわざわざ見せる必要は無いからね。
そうだ。このライフルの弾のことがあるじゃないか。軽トラから弾の箱を回収し、リロードを済ませておこう。ゆっくりやれば、ちょっとした時間潰しになるはずだ。
私はゲートから出る。既にボロボロなこともあり、ボンネットを遠慮なくさっさと乗り越えられた私だった。
しかし、ゲート前に広がる数々の死体の間を歩くのは、遠慮なくというわけにはいかなかった。足で踏まないようにそっとだ。転んで死体に倒れこんでしまう展開なんて、私は経験したくない……。
何度かつまづきかけたものの、私は無事に軽トラまで辿り着けた。車体のあちこちが血で赤く汚れていたけど、車内は元々の色を保っている。ガラスは割れ、タイヤはしぼんでいるけど、走ることはまだ大丈夫そうだ。こんな状態のままは嫌だけど。
車内に散らばるガラス片に気をつけながら、私は弾が詰まった箱を、助手席の足元から拾い上げた。小さなガラス片が、夕焼けでオレンジ色に光りつつ、箱の上からパラパラと落ちていく。
ああ、日が沈んでいく。今日もまた一日が終わるんだ。……いや、暗い昼が終わり、もっと暗い夜が始まるわけだね。
昨夜の酷い記憶を思い出し始めたものの、今はそれを排除したい気持ちが湧いてくる。その気持ちは、私にドアを力一杯で閉めさせる事で、記憶の思い出しを強制終了させた。