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正常な世界にて

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 彼らが着ていた軍服の緑色も、アスファルトの黒色も、今のゲート前を目にすれば、なかなか見つけられない。赤色なら、暗い系、明るい系、濃い系、薄い系の色を次々に見つけられる。いろいろな意味で目に悪い光景が広がっていた。
「オエエエ!!」
伊藤の手伝い役の男が嘔吐する。もう一人の手伝い役が、気持ち悪さに苦しむ彼を介抱している。
 おそらくこの二日間は、伊藤の手伝いに徹していて、コミュニティから外出していないんだろう。死体を見るのはきっと、これが初めてなんだろう。初めての惨状がこれなら、盛大に嘔吐しても納得がいく。

 それに対して、私は平然そのものだ。自分でも怖いぐらいに、やっぱり実感が湧いてこない……。
 瀕死状態も含めれば、死体は高1から何度も目にしている。数え切れないほど死体を見た話なんて、とても自慢できる話じゃないけどね。
 おまけに、この濃密な二日間だけでも多くの死体を見ているから、ちっとも驚かない。いや、驚けないんだ……。

 驚けない事情もあり、私は彼らの死について考える。自国民を撃つといった理解不能な行動をした末に、試作品の銃で撃ち殺されたわけだ。私たちからすれば、無意味かつ無惨な死に思える。
 ……いや、名誉の戦死という事でいいじゃないか。同じ日本人と戦って死んだなんて悲惨だし、税金の無駄にも感じてしまう。

 それから前述の通り、あのブルも名誉の戦死を遂げていた。坂本君の話だと、最後に倒れたのがヤツらしい。重機関銃の猛烈な銃撃を全身に喰らわせまくり、ようやく倒せたとの事だ。
 ご自慢の対爆アーマーはボコボコに凹み、顔を覆う強化ガラスはほとんど割れて残っていない。西日が差し込まなくて見えないけど、顔面が深刻なダメージを受けていることは確実だ。
 ここまで来ると、私が見事命中させて、やっとヒビを走らせた経緯なんて無かったみたい。自分の手でブルを倒したかったから、残念に思えてくる。

 とはいえ、私たちはゲートを守り切れたんだ。しかも、こっち側に戦死者は一人も出していない。防御側のこっちが有利だったけど、これは夢や奇跡みたいな勝利だ。なので、人に信じてもらえるのかという不安が浮かんでくる。立派な銅像を立ててほしいわけじゃないけど、話を信じてもらえないのは悲しいからね。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん