正常な世界にて
坂本君は任された途端、重機関銃を握りしめる。よほど悪運が強いのか、ブルの機関銃がちょうど弾切れになったタイミングでだ。だけどそれは、兵士たちの突撃再開を意味する。
「わあああああ!!」
一気に片をつけるためか、今度は大声を張り上げながら突撃してくる兵士たち。仲間を何人か殺された事による復讐心も、彼らの戦意を駆り立てているに違いない。
「使い方はね」
伊藤が坂本に、重機関銃の扱いをレクチャーしようとする。
「いいです! 喰らえ!!」
ところが、1つ目の手順を話すよりも前に、坂本君は引き金を引いてしまう……。
ボォーーーという途切れの無い銃声が、数秒間鳴り響いた。元々無いのかもしれないけど、安全装置はオフだったようだね。
ブルの軽機関銃よりも猛烈な勢いで、無数の銃弾がビュンビュン飛んでいった。私のライフルは5発ごとにリロードだけど、その重機関銃は銃弾のベルトが続く限り、撃ち続けられるんだろう。
突撃してくる兵士たちの先頭部分を、重機関銃は削り取っていた。残り少ない鍋の中身を堂々と掬い上げるように、ごっそりとね……。 兵士たちは重機関銃を恐れ始めていたが、突撃を止めようとしない。彼らは名誉の戦死を覚悟している。私はそう思うことにした。
「その調子! その調子!」
レクチャーを断わられたものの、伊藤は初舞台を無邪気に喜んでいる。
「すごい! 威力がすごい!」
坂本君は坂本君で、重機関銃の力を無邪気に喜んでいた。そして、彼は引き金を再び引く。今度は数秒間だけじゃ済まない。重機関銃を握る彼の横顔を見て、それを察せられた……。
重機関銃が沈黙したのは、銃弾のベルトが銃の中に消えていった後だ。1分間足らずの発砲だったけど、耳の中ではまだ鳴っている気がする。それほどの猛烈さを、その水素式重機関銃は教えてくれた。
だけど、突撃してきた兵士たちが、その教えを役立てる機会は訪れない。むしろ、体を張って教えてくれた立場だ。立っている兵士は一人もいないけど。
ゲート前の路面は、死屍累々という言葉が、一吹きで飛ぶ軽い表現に思えるほどの状況だ。重機関銃が火を噴く前も、死体がチラホラ転がり、路面の一部を赤く染めていたけど、今は一面がそんな有り様だった。