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正常な世界にて

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 ちょうどその時、ボンッという低い音が、私が身を隠す車の中から聞こえてきた。銃声が鳴り響く中、よく目立つ音だった。気になった私は、少しだけ見上げてみる。
 ゲート部分に当たる車の中で、白いエアバッグが勢いよく開いていた。銃弾の当たり所が的確だったんだろう。それからすぐ、別の銃弾によって、その風船は破裂した。

 ……殺しの実感について考えるのは、また後にしよう。後で考えなくちゃいけない事が、次々に増えている気はするけど、それも後でいいや。

 軽機関銃の銃撃は続いており、自動小銃も時々加勢してくる。
「そろそろ下がったほうがいいよな?」
「いやいや、ここが突破されたら……」
坂本君とゲート係が喋っている。彼らがそう話し始めたのは、やはりこのゲートが、そろそろ持ちそうになくて危険だからだ。
 ゲート部分の車からは、あらかじめガソリンを抜いてあるものの、このままだとエンジンが危ないらしい……。映画のような爆発が、目の前で起きた場合を考えると、私は今すぐ逃げ出したくなった。敵に背中を向ける格好だけど、女の私なら許されるはず。

「はいはいはい!! そこどいて〜!!」
するとそこへ、背後のコミュニティから伊藤が走りこんできた。彼の後ろには二人の男がいて、彼らは重そうな物を運んでくる。彼らは流れ弾を避けるべく、路面にそれを降ろしてしゃがんだ。

 それは、例の水素を利用する重機関銃だった。ブルが撃ちまくっている軽機関銃よりも、文字通りの重々しさを印象づける。
 伊藤たちはそれを、凹みや傷だらけなボンネット上に据え付けていく。そんな状態が幸いしたようで、重機関銃の三脚をしっかり固定できていた。
 据え付け完了までは10秒ほどだったが、銃弾は遠慮なく飛んできている。しかし、伊藤だけは平静を保っていた。むしろ、興奮してるようにすら見える。
「人を撃つのは初めてでね」
私の視線に気づいた伊藤が言った。
 なるほど、そういうわけか。作った彼からすると、自分の子供の初舞台みたいな感覚なんだろうね。
「君が撃ってみる?」
突然の提案に、私は首を強く振る。好奇心は正直あるけど、荷も反動も重そうだ。坂本君が即座に立候補した時、やっぱり自分がとは思ったけど。
 まあどのみち、この二日間の出来事を考えれば、後々嫌でもやらされるに決まってる……。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん