正常な世界にて
【第32章】
渇きのある発砲音が鳴り響くと、ドラゴンズバッジを付けたそいつは、ボンネット上から仰向けで倒れこんでいく。そして、路面にバサリと落ちた音が、この喧騒の中でもハッキリと聞こえた。うるさい大声はもう聞こえてこず、兵士が死んで、永遠に黙ってくれたとわかる。
見事命中だ! やった! 敵の兵士を一人を倒してやったぞ!
私は無邪気に喜ぶ。喜んじゃいけないかもだけど、喜びたい気持ちが一杯で、私は喜びたい!
「森村! 敵はまだまだ来てる!」
無邪気に喜ぶ私は、坂本君の声で我に返る。そうだ、まだ途中なんだった。
私は気を取り直し、ピストルを構え直す。弾はまだ4発残ってる。慎重に狙って撃たないとね。スコープは覗けないけど、ライフルを撃つ要領で撃てばいいんだきっと! 銃口を再びブルへ向ける私。
「リロードかんりょう!!」
ちょうどその時、ブルがそう叫んだ。突撃中の兵士たちは、物陰からこちらの隙を伺うことすらしなくなり、きっちりと身を守る行動に移った。
「伏せて伏せて!」
坂本君はそう言いながら、私の襟の後ろを掴み、無理やり伏せさせた。
「痛い痛いっ!」
痛みは無いけど、そう叫ばずにはいられない。転びそうになったぐらいだからね。
私の叫びを消し去るかの如く、軽機関銃の銃声が連続して鳴り響き始める。銃声を体現するかの如く、いくつもの銃弾が、私の頭上を飛び去っていく。
「無茶しないで!」
「…………」
坂本君の表情と口調は真剣そのもので、何も反論できなかった。大袈裟な表現だけど、シリアスな戦争映画に登場する鬼上官によく似た雰囲気を、彼は身にまとっていた。
そんな理由もあってか、ここでやっと私の中に、殺し合いをやっているんだという実感が湧いてきた……。昨日今日の事だけど、コンビニ横で初めて発砲したときも、公園でライフルを撃ちまくったときも、人を撃っている感覚が全然湧いていなかったのだ。
実感が、実感が。これはきっと、良くはない傾向だろう……。